リリカルなのは-Beautiful Fantasy- 過去に絶望を、未来に希望を──V 続けて襲いかかる連続攻撃。それを全て難なく看破する、しかしその隙につけ込んだ反撃はこなかった。ならば逃げ場のない一撃で無理やりにでも── 「カートリッジ」 再び剣を収納。そのまま左腕を突き出して支える。 「打ち抜けぇ!」 「ッ!」 壁のごとく迫るプレッシャーにトウハが毒づいた。見るからに強大な魔力の砲撃を前にして、上段より振りかぶる打ち下ろしの一撃で相殺。それを見たリヴァルが驚嘆に動きを止めた。 「……いやはや、まったく……本当に」 私は、人に恵まれたな──。 “両断”された魔力を見て、つくづく諦めのため息しか出てこない。同時に確信が持てた事に安堵する。 アレは、化け物を殺す為の力だ。 トウハは、化け物を倒す力がある。 だからこれは、きっと。 魔王に挑む勇者に与えられる試練。 「……それでも貴公は、“英雄”なんかに興味はないのだろう?」 チャキ──、刀を構え直すトウハは何一つ“人間らしさ”の無い、存在の希薄な存在として瞳を青く輝かせていた。 様々な人と出会い、別れ、そして戦い──勇者は人々に支えられて魔王を討ち滅ぼす。その後に笑顔の溢れる世界が欲しくて。 「…………」 「何が欲しくて、貴公はそこまでの高みを目指した」 「……僕は」 ……何が、欲しかったのか。答えは一つきりだ。だけどそれは、自分の手で手に入れたい物じゃない。 風に揺れる一輪の花。それに寄り添うように揺れるもう一つの華。 なにも、いらないのかもしれない。 どこにでもあるそれを自分だけの物にしたいなんて、そんな“わがまま”は言わない。 「何も……いらないんだ。こんな力も、何もかも」 だけど、それでもと。トウハは涙を堪える。その胸の内に咲く大輪の願いを枯らせない為に、剣を執ると決めたのだから。 「たった一つの約束を、守りたいんです。それで……それで──笑顔が守れたら、もう何もいらない」 孤独でもいい。無限に続く牢獄に放りこまれても構わない。永遠に続く闘争に踊らされてもいい、そこに笑顔があるのなら。 今まで出会って、笑いあって、別れて「またいつか」と手を振った人々がいる。 そうしてまた笑って、その幸せな顔が見れるのなら── 「僕の力を貸します、利用してください。もう他に何も“無い”んです。無償で傷つきましょう、無償で戦います、無駄なく付き合いますよ。──それが『彼女の笑顔』を守れるのなら僕は、森羅万象にも逆らいます」 たった一人の為に捧げる、無間の闘争。 たった一人の為に捧げた、夢幻の現夢。 ──そこに籠めた、人の全て。 「……それが、手の届かない高嶺の花でもかトウハ」 「花を摘むのは無粋でしょう。届かなくてもせめて、僕には眺めるだけでいい」 どこまでも……。リヴァルはもう完膚なきまでに敗北している。 自分に果たして、そこまでの気概があっただろうか? 今となっては泡沫の夢だ。否、それの幕引きにはこれ以上とない千載一遇の機会。見逃す理由は無い。 [*前へ][次へ#] [戻る] |