リリカルなのは-Beautiful Fantasy- 天空を制する者─U 《Double Head》 別離に分かれたバレルを右手に持ち、二挺の銃口を構える。高速直射の雨を全弾迎撃してマグランからの《HORNET FLARE》を防ぐ。 リミッターを解除しても互角に持ちこむのが限界だった。そこにブレンデットが突貫してくる。ファルドの射撃の中を《MCM FLARE》で切り抜け、互いの銃口を突き付けた。 『ホント、不器用なんだから……』 『……ブレンデット特務准尉』 トリガーではなくブレンデットはその場で蹴りあげ、離脱する。慣性移動状態からの後方一回転までされてはもはや曲芸技だ。 「喜べファルド。記録更新だ」 《STEALTH BOOSTER》 シルフィの言葉を最後に、ファルドは再び撃墜される。 「無事ですか、ウォルフさん」 「ああ。最大出力で音を挙げるなど、俺も歳だな……」 胸を締めあげる鼓動に、苦い顔をしていたウォルフの目が──“合った” 「ッ、オオオオオォォ!」 姿勢制御とケルベロスの補助で持ち直したファルドが吼える。全身に走る激痛を堪えて、空を駆けあがった。 《MCS READY》 銃身に内蔵されたマルチデバイス最大の特徴であり、同時に管理局の禁忌でもあるシステムが胎動する。一度魔力制御を誤れば、それは死と同義だ。 ファルドは誰よりも死に近く、仲間を遠ざけている。 「起動」 《GO TO HELL》 か細く笛を吹くような起動音、グリップ下部とハンマーから突き出した突起状のアンテナから魔力を無尽蔵に内包する。限界許容のラインを見極めて、起動と停止を繰り返す技量がなければファルドは飼い犬に喉笛を噛み千切られることになる。 吸収した分の魔力を加速と射撃で消費しながら、ウォルフを目指す。 それを妨げようとしたシルフィを、ウォルフは制した。 「……良い。オレが直接、この手で落とす」 「……はい」 血を振り払いながら迫るファルドを見る目は、哀憐と後悔の眼差し。 左腕をデバイスにして、管理局の禁忌にすら手を出して、それでようやく──。 引導を渡すのは、元凶である自分だ。そうでなくてはならない。 もし、それでも……苦難を乗り越え、まだ羽ばたくと言うのなら。 「ファルド……お前が不滅を名乗れ。その時そこにオレは居ない」 《Learn a trade,for the time will come when you shall need it.》 そして、再三に渡りファルドは撃墜され──それを支える者に助けられた。 「この、馬鹿野郎が……! ちっと待てば俺も戦ったってんだ」 両手のデバイスに亀裂が走り、ロングカートリッジも破損している。だがそれがどうしたというのか。 たかが、その程度だ。それで砕ける拳じゃない。笑い飛ばして、真紅の破壊者は相棒を起こす。 [*前へ][次へ#] [戻る] |