リリカルなのは-Beautiful Fantasy- 反逆者──U ちらと見れば、やたら派手に赤いチャイナドレスに白衣という奇妙な組み合わせの女性が協力者の技術者達にあれやこれやと指示を飛ばしている。まるで女王、女帝で男達もうだつが上がらない様子だ。事実、クレイモア団員達も好き好んで近づこうとはしない。 「おい、女王様よぉ。そっちの方はどうだ」 「勿論順調に決まってるじゃない。他でもないこの私が関わってるんだもの。流石私、感謝しなさいな」 アリアルルシア・エンドライト。同業者の次元犯罪組織『JAIL NIGHTMARE』通称、悪夢の檻。技術者系統の犯罪組織に属する一人だ。相当な自信家でグレイにも平然と歯向かうような口振りだが、その実力は評価出来る。 「今は何してんだ?」 「言ったところで理解するかは置いといて、機関部の製造よ。大体なによコレ、桁外れな出力じゃない。LL級動かすのにここまで大層なエンジン四つもいらないわ、サブも含めて合計十六機、気が遠くなりそうね。ま、私に任せておけば」 「どんぐらいだ」 「半年もかからないで完成させてみせるから安心しなさい、団長様」 ウインクをしてみせるアリアルルシアは、やはり美女だ。グレイは素っ気ない返事をして、見て回っている。 外では団員同士、模擬戦闘の真っ最中だ。一部では管理局の教導隊による空戦の編隊機動を教授している。 それを手すりに寄りかかりながら眺めていた。 「…………」 生憎の天気である。乾燥した気候だが、空は曇っていた。黒煙が消えることもなく漂ってきたせいで太陽は姿を隠している。 グレイは青空を眺め、アグレッサーの一団に舌打ちした。青空はやはり好かない。 「グレイ、“上”からの指令だ」 「すぐ行く」 任務内容はとある古代遺物の奪取。しかも速球に向かって欲しいとの理由付きだ。 「これはまた、面倒な仕事だ。総掛かりでも厳しいな」 「冗談か」 「事実だ。くそったれが。大方共倒れでも期待してんだろうよ、連中は」 古代の情報端末機に記録されているベルカの歴史が目的だろう。本当に重要なのは“中身”の方だ。 「ルード、アーク。行くぞ」 「行くぞ……ってグレイ。お前も出るのか」 「ったりめぇだ、いつまでも腐ってらんねぇよ」 その手配写真を見て、グレイは渋る表情を見せている。 「万が一、レグナ・デスティニーと遭遇したらテメエらはなにがなんでも逃げろ。いいな」 「了解」 ルードが即座に頷く一方で、アークはどこか茫然としていた。 「アーク、返事はどうした」 「えっ、あ……ああ。了解」 「しっかりしろよ、“夜天の主”」 「……俺は、コピーだ。それと補足するなら“初代”だぞ」 「へっ、嫌味で言ってんだよ」 早速ファフナを発つ用意を始めるグレイとルードに、やはりアークは遅れて行動する。 (…………帝王の、遺産……) 自分の記憶にはない情報が引き出される感覚に、目眩がした。 「何してんだ、早く行くぞ」 「ああ、悪い……」 「ジャグ、留守は任せた。変な気起こすんじゃねぇからな」 (……忘れろ。俺は、アーク・セヴルだ。初代夜天の主じゃない) そうして、クレイモアの上位三名は出撃する。 グレイ・ヴァン・デューメント。 ルード・ヴァサリア。 アーク・セヴル。 僅か三名の最強戦力。それは管理局の一個大隊ですら壊滅させ兼ねない過剰戦力。 その三名が、出撃する──。 [*前へ][次へ#] [戻る] |