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リリカルなのは-Beautiful Fantasy-
一ページ

 ミッドチルダのスポーツジムに今、一仕事終えた管理局の魔導師がいた。明らかに不機嫌な様子で黙々とサンドバッグを殴っている。力任せな様にも見えるが、その実は流れに沿って叩いていた。
 早い話が八つ当たりである。
 ロア・ヴェスティージは柳クルヴィスの策にまんまとはめられていた。

 ──時は遡り、数時間前。地上本部に到着して早々、クルヴィスが一言。

「ロア隊長」
「なんだ」
「一切無言。且つ、微動だにしないでください」
「無茶苦茶言うなお前……」
「じゃあ器物破損だけはやらないでください。吠えてもいいんで」
 その内容を聞くまでロアはいつもの冗談だとばかり思っていた。

 機動武装隊のしんがりを勤めるのが副隊長としての役割。それに嘘偽りは一切無い。文句も言う気はなかった。ファルド・ヴェンカーが部隊長として再建させたいと言ったあの日から。

(──畜生が、畜生! あぁクソッタレめ!)
 苛立ちを拳に込めて乱打、サンドバッグはくの字に曲がった瞬間天井まで振り子の様に叩き付けられる。戻ってくる重量何百キロという砂袋をロアが蹴り返す。

 拷問のような一時を過ごした。鼻で笑われ、誹謗中傷、あることないことを愚痴られながらも耐えた。ひたすらに耐えた。
 青筋が浮かび、唇の端が引きつり、思わず床をへこませてしまったが暫定評議委員会に出席した将官クラスの方々は生き地獄だっただろう。目の前で人食い怪獣が放し飼いにされているのだから。
 それについては一切反省しない。

 ともあれ。ロアというスケープゴートによって機動武装隊の解散は免れた。
 そして、クルヴィスはまんまと地上へ胡麻を摺ったのだ。

(……の、野郎め!)
 言い分は分かる。理解も出来る。百歩譲って足りなかったから二百歩譲って収めた怒りを現在晴らしている。
 まだ憤りが収まらないロアの前にスキンヘッドの巨漢数名が立ちはだかった。少々派手にサンドバッグを殴り過ぎたのが原因だろうか。

「ちょいと目立ち過ぎ……じゃ……」
 何を思ったか、無言で傍らのバーベルを鷲掴みするロア。百キロの重りを両手でやっとこさ持ち上げるトレーニング中の男性から半ば奪うように、片手で持ち上げ始めた。
 肩に担ぎ上げ、天井に向けて高々と掲げられる百キロのバーベルにスポーツジム中の視線が釘付けだ。

「俺ぁな……今、非っ常に機嫌がよろしくねぇんだ……! 骨の髄までタコになりたくなけりゃとっとと退け……!」
「ぉ、ぉぉ……オーケーオーケー……ど、どぞぅ……」
「邪魔したな、ほらよ」
 バーベルを呆然と見ていたトレーニング中の男性へ返す。百キロという重量に何を錯覚したのか潰され掛けていた。
 ロアは騒ぎを尻目にスポーツジムを後にする。

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あきゅろす。
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