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リリカルなのは-Beautiful Fantasy-
第一節-1

──足りぬ

 震える手を眺め、渇いた心で呻く。自らの失った物は余りに多く、残った命すらも生に繋ぐので精一杯だった。

──…足りぬ

 あまりにも情けない。絶対強者として、世界が怯える悪の頂点たる面影は零に等しい。
 あらゆる手を使い、永劫の時間を掛けて力を蓄えてきた。だがそれが崩れ去り、命からがら生き延びている。

敗北。その言葉が重く刻まれた。

──我は、餓えたり…

 身を隠し、欺く。再び力を蓄え、今一度反逆の機を待つ。その為に必要なのは手足だ。自らが持つ膨大な知識を伝える為に、頭。
一度、体の感覚を確かめる。何と動きづらいことか。矮小で脆弱な肉体だろう。だが、それも今しばらくの辛抱だ。

 世界に光が広がる。地平線の彼方より浮かぶ忌まわしき太陽。人々の希望に満ちた朝が始まる。憎らしく睨みながら、一歩踏み出す姿は黒づくめの服装に身を包んでいた。金色の瞳は荘厳にどす黒いきらめきを灯す。

忌まわしき陽の光に誓おう。

その希望の一欠片、余さず食らい尽くすと。





──足りぬ

 幾度の戦いを終えても満たされない。争いが終わった地に腰掛けて空を仰ぐ。夜空に星が輝いていた。

──足りぬ…

 自らの拳を力強く握り締める。足りない。何が足りない。暫しの思考を挟み、何度見てきたか分からない面影がちらつく。

──何故、足りぬ…

 何年前の光景だろうか。今なら、今の自分なら間違いなく勝てるはずだ。だが、それでも足りないと思える。
何時から居なくなっただろう。今頃、どれだけ強くなっているのか。剣を交えて確かめたい。

願わくは、共に──。

 突き立てた剣を引き抜き、腰を上げる。こうしている場合ではない。一刻も早く見つけなければ。

夜が明ける。また一夜を戦いで明かしてしまった。討ち取った獲物は背後で骸となっている。

今一度誓おう。朝日に向けて。

自らの武と技を持って見つけだし、連れ帰ると。





 JS事件が解決し、機動六課は役目を終えて残りの時間を過ごすだけとなっていた。その間もフォワード陣はなのはによる当社比三割増しの訓練に打ちのめされている。
一仕事終わり、若干気が緩んだ六課の雰囲気の中で部隊長であるはやてだけが表情が引きつっていた。本局から送られてきた連絡内容を二回確認する。目をマッサージして、もう一度確認するが内容は変わらない。

 そして、同時刻。機動六課に到着する一台の自動車。

「…今頃度肝抜かれてるだろうなぁ、八神部隊長は」
一人呟きながら車から降りて歩き始めるブロンドの髪の青年。左耳に十字架のピアスを付け、封筒を持っていた。
階級は三等陸佐、はやてと同じだが所属する地上部隊は一癖も二癖もある。

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あきゅろす。
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