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助太刀屋
小さく燈る明かり
歩いていた。
唯歩いていた。
現実はやはり残酷。
こんな間にも、俺は蝕まれている。
だからやられる前に、やりたいことをする。
その為にここを出た。

「やっぱり・・酷くなってるのね。」
座る女性は悲しい目をして言った。男が戻り、溜息一つで席に着いた。
「そろそろ、放浪も止めたら?」
優しい声だった。自分の全てを、受け入れてくれる様に聞こえた。
「・・いいや、続ける。」しかし、その言葉を振り払う様に言った。
四年前、絡まれていた少年を助けた時、彼は大怪我を負った。傷は深かった。完治するなど、到底思えない程に斬られていた。
しかし、医者も驚くほどの生命力により、一命を取り留めることが出来た。

その時の後遺症を引きずり、流れ流れる内に重くなり、今に至っていた。
助太刀屋はそれを悟っていた。自分の記憶が無くなっていく日々を重ね、遂には感情さえも無くなってしまうということも知っていた。
だからこの感情が残っている限り、やれるだけの事をしようと決めた。
その答えが、助太刀屋だった。

「そろそろ行こうかな・・」
助太刀屋は酒を飲み終え、席を立った。しかし、正面の女性は寂しそうな表情をした。
「も・・もう、遅いよ。今日は、泊まっていって。」確かに、表は日が沈みかけていて、町の様子もがらりと変わる節目に当たった。「ふぅ・・分かった。じいさん、酒くれ。」
彼女の要望に折れた助太刀屋は、再び席に座り酒を頼んだ。
「香織、変わってないな。」
彼女の名前は香織と言うらしい。その言葉に、香織は目をキョトンとさせた。
「え、何が?」
「相変わらず、俺を困らせるのがな。」
助太刀屋の意地悪な言葉に香織はくすりと笑った。
「じゃあ聞くけど、いつも困らせてるのは誰??」
薄笑いを浮かべながら、香織が迫った。その言葉の返答に困ったのか、助太刀屋は流す様に横に目を向けた。
「別に・・困らせては無いだろ。」
「はぁ・・心配してるの。」
その言葉に助太刀屋は反応し、香織と顔を合わせた。「会えない日多いし、ていうか会いたくても会えないし・・旅止めてって言っても聞かないし。」
何気に責められた。心当たりがあるのか、助太刀屋は黙って聞いた。
「時々思うの。もしかしたら、会っても私の事忘れてるんじゃないかって・・だから・・だから・・・」
だんだん声が小さくなるに連れ、香織の顔が下がっていった。助太刀屋は、どう反応すれば良いか判らずに、固まってしまった。そして、香織は顔を上げた。目にうっすらと、涙を溜めていた。
「そばにいたいの・・・」その言葉と共に、彼女の涙は落ちた。

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あきゅろす。
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