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助太刀屋
遠い記憶
眩しすぎる位明るい景色。なのに街の建物は異様にはっきりしている。
すると、辺りが眩しいのでは無く、白い事に気が付いた。
空白だらけの世界。
しかし背景は見た事がある。
辺りがちぐはぐしているのは、思い出せない風景。それとも、思い出したくない記憶。
そんな事は無いはずなのに・・
少女は下を見た。有ったのは、鏡が割れ崩れたような破片。大きいのもあれば小さいのもあった。
景色に嵌め込もうと、破片を掴むも、持てなかった。触れなかった。
少女は、自ら涙を流していることに気付いた。
夢の中のはずなのに・・

少女は目を覚ました。
枕は濡れていた。
起き上がり溜息一つ。
置いてきた街の記憶。
そして込み上げてくる記憶。
明日出ようと、少女は決めた。


走馬灯の記憶の中の、一つを辿る男がいた。
先に有ったのは一年前。
少女を助けたのは些細な事だったと思う。
だから、確か料金請求はしなかった。
転がってるのはそんな物か・・
他には出てこない。
忘れているだけか・・
まあそんな物だろう。

「あの・・助太刀屋さんですよね?」
少女は会いに来た。この二人の記憶の格差を、互いが知らずに会う。それは普通な事かもしれないが、余りに大きすぎた。
「遊吉。知り合い?」
助太刀屋と話していた女性が、気になったように聞いた。
「えーと、何処のお国のお嬢さんかな?」
頭の中の記憶が虚ろで、やはり思い出せなかった。一先ず、助太刀屋は国を尋ねた。特定の町の事なら、ある程度覚えていたのでそっちの方が都合が良かった。「駿河で・・助けてくださいましたよね?」
おもむろに少女が答えた。助太刀屋は、もう一度記憶を辿った。
確かあそこでは・・
やはり何もしてない・・
町では宿に居た・・
町では・・・町では・・
「ごめんね、思い出せ無いわ。ちょっと待ってね〜。」
そう言うと助太刀屋は、袖に閉まってあった紙を束ねた請求書を出し、探し始めた。駿河を探していた助太刀屋は、その紙を見つけたらしい。確かに、駿河で一人助けたらしい。

「だね。じゃあ、料金を。」
思い出せたのか、早速と言わんばかりに料金請求をした。少女は、手に持っていた袋から三両を出し、助太刀屋に渡した。
「確かに。駿河か・・帰りは?」
金を手にした助太刀屋は、少女に尋ねた。
「え・・あ・・」
少女はそのまま考え込んでしまった。どうやら、帰りまでは考えていなかったらしい。
「・・ならこれで帰んな。」
助太刀屋は別の小銭入れから二両だし、少女に渡した。
「そ・・そんな、こんなに?」
「さぁ、もう用事は終わったろう?」
助太刀屋にはちょうどいいタイミングで亭主が来た。「あぁ。お嬢さんのお帰りだ。」
そう言うと、亭主は少女の手を取った。少女は慌てた様子で、何度も振り返り助太刀屋を見ていた。

テーブルの彼女は溜め息一つ、病んでいた。

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あきゅろす。
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