助太刀屋 誓いの証 タダ淡々ト時流ル。 辺リニ人ノ声ハ無シ。 凩ノ吹ク荒レタ町。 ソノ中ニ人ノ影モ無シ。 腕ヲ汚シタ少年一人。 ソノ心既ニ地ニ堕チテ。 カゴメト囲イシ血ノ鎖。 鎖ニ人ノ温モリ無シ。 鎖ヲ断ッタ鋭キ光。 ソノ中ニ人ノ心在リ。 光ハ一人ノ心ヲ照ラシ、 希望トイウ名ノ翼ヲ与エ。 光ハ一人ノ身体ヲ照ラシ、 汚レシ腕ヲ浄化ト成ス。 今舞イ降リシ閃光ニ、 鎖ハ地ヘト還リ行ク。 そんな言葉を探していた。風渦巻く中。 戦いが始まった。じりじりと距離を詰めてきた。既に構えは整っていた。しかし助太刀屋は刀を抜かず、鞘の方を持っていた。相手は更に間合いを詰めようと、足を擦らせた刹那、助太刀屋は鞘で地面を腕を回するように擦った。同時に上がった砂煙が、相手の視界を奪った。囲んだ三人の内、二人は真ん中に向かって刀を思いきり突いた。しかし、互いの刀が弾き合い、目標を突く事は出来なかった。 「うああぁぁ!」 すると、辺りを見回していた一人が、悲鳴を上げた。突いた二人は、声に反応し一人に注目した。 「何だ!どうした!?」 「あ・・足をやられた!」振り向いた時には、仲間の一人が倒れていて、足を手でかばっていた。 すると、攻撃を仕掛けた二人の内の一人の背後から、細い何かが高速で駆けた。相手が気付いた頃には、既に一人の足にそれが絡まっていた。絡まりしは錆びた鎖。その鎖に引かれ、一人の男は悲鳴を上げながら飛んでいった。 「うぉりゃあぁぁ!」 残った一人は、背後に気配を感じ、思いきり刀を背後に振り回した。 「おっとぉ。」 背後に迫っていた助太刀屋は、刀をスレスレで避け、軽く後ろに下がった。 状況は一対一。 息絶え絶えに、相手は刀を構えた。 「もう、勝てねーよ?自分。」 助太刀屋は、細長いパイプを取り出し、火を点け吹かしだした。 「何言ってやがる!?」 顔に怒りを浮かべ叫んだ。「だって、今からお前は・・」 そう言うと、腰から何か変わった形の物を出した。相手は、それが何か認識出来なかった。 「片足が使えなくなる。」言い終えた刹那、その物体は火花を出し、馬鹿でかい音を立てた。その音に驚いた相手は、姿勢を崩し、倒れた。しかし、倒れた理由はそこでは無い。崩れ落ちたのは左足。弁慶の位置に、風穴が開いた様な傷があり、大量の血が流れていた。 「ああぁぁぁ!?痛ぇ!痛ぇよぉぉ!」 男は足を抱え転げ回った。「大丈夫か!?逃げるぞ!早く!」 転げ回る男を二人で抱え、怯える様に逃げ去っていった。助太刀屋は条件通り、相手の命を奪わずに、少年を守った。 少年はその場を一寸たりとも動かずに、目の当たりの状況を見ていた。そこには、感謝と同時に畏怖の念が、少年の中に現れていた。「おい、坊主。立てるか?」 助太刀屋は、ぴくりともしない少年に手を差し延べた。 「あっ・・ああ・・」 少年は我に帰り、目の前の手を掴み、立ち上がった。「ふぅ・・さて、早速手間賃の事何だが・・」 そう言うと、助太刀屋は胸元から一枚の紙を取り出した。 「名前何?」 助太刀屋は、書く体制に入った。 「え・・あ、えと・・六麓(むろく)です。」 改まった様に、自分の名前を述べた。助太刀屋は、少年の名前を紙に書き、歯で親指を噛み、血印を押した。 「料金は三両。利子無し。金が出来次第、払いに来い。」 そう言い残し、助太刀屋は歩み出した。 「あのっ・・」 少年は助太刀屋に何かを言いかけた。 「ん?何だ?」 助太刀屋は振り返った。 「あ・・ありがとう。助けてくれて・・」 真顔で礼を言った。それは少年なりの誠意を込めた物だった。すると助太刀屋は、少年に歩みよった。 「いいか?自分の為か、家族の為か知らねーが、盗みは絶対するな。」 助太刀屋は少年の顔を見ながら言った。 「生きる為、お前がしなければならない事は、もっと他にあるはずだ。こんな事で命落としたら、お前自身も死に損で、さらに家族はもっと悲しだろうよ。」 助太刀屋はさらに続けた。「今の自分の感謝に心から誠意が持てるなら、ただ誠実に生きろ。」 少年の頭を撫で、笑顔で言った。そして、助太刀屋は風に掠われる様に歩き去った。 少年は、助太刀屋が見えなくなるまで見送った。 誓いの言葉を胸に立て、言葉では無い何かで、彼は見送った。 それが、彼の誠意の証だから。 [前へ][次へ] [戻る] |