DOG'S LOVE FIGHT! 3 「断罪をもたらし人」などと、そんなのは全くの傲慢であり、ナンセンスだ。人が人を裁くなど元来出来ようはずは無い。 それでも、俺が望むも望まざるも関係なく、一度ひっくり反された砂時計が止まることは無い。 絶望も希望も愛も憎しみもたださらさらと押し流して底へ底へと流れ落とされていくだけなのだ。 始まるカウントダウン。 何処へ向かう、何処へ向かおう、何処へだって、 何処だって、いい。 此処で無い何処かならば、何処だって、 この現実に耳を塞いで目を閉じ、何も聞こえず見えず感じずにいられるならば、何処だって。 あの男がいないならば、何処だって。 思考を無理矢理にでも閉じてしまうために、目を瞑った。腹に落ちる不安を俺は無視することで無いものにした。ただの繰り返しになっていた日常からまた離れてしまうことに気づいていたが、このまま此処で漫然と日々を過ごしていくことに比べれば、「新しい一日」は確実に今日よりは良い。 そう感じるのは何故なのか掘り起こそうとした意識を俺は完全に止めた。 同じ毎日を送ることへの「恐怖」が何処から来るのかなんて考えるのは自虐以外の何者でも無いだろう。今日と同じ明日を送れないのではないかという恐怖。安寧の日々割れる不安。 たった一人の手によって、だ。 それを跳ね返すだけの気構えの無い情けない自分自身を、俺はまだ鑑みる気にはなれない。 *** 橘美大貴は苛立っていた。 なりたくもなかった示威集団の最上位模範生なんてものに納められてからこっち、ろくなことが無い。 豪奢な作りのデスクに乱暴に両脚を乗せる。木製のアンティーク家具だかなんだかがぎしりと音が立てたがそれにもまるで頓着出来ない。 ここはやたらに広大な敷地と潤沢な経営資金を持つ私立学園の、限られた人間しか足を踏み入れることが出来ない部屋だ。眉を潜める者はいても、特に彼の態度を指摘する者はいない。 「…ち‥」 懐から取出したメタルケースの底を軽く当てる。飛び出した煙草を一本取り出し、吸い口を下にしてケースに何度か当て、火をつける。 シュボ、 肺までは入れず、部屋に蔓延させるかのようにふうう、と吐き出した。視界に眼鏡の奥で眉を潜める同席者を認めるが、やはり何も言っては来ない。 肺にまで循環させるとその一瞬だけ腹の底のささくれが落ち着いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |