死帳文
春一番。

「あ、夜神くん‥」
「ん?」

今日は捜査はお休み。
のんびり束の間の休日を過ごしたいけど、僕らの間には鎖があるわけで。
好きなこと全部が全部出来るはずもなく
さっきから竜崎は窓の外が気になるみたいで付き合わされてる。

「さっきから‥あ、ほらまた」
「ん?ああ、桜か」

春一番の風が吹き
折角綺麗に咲いた花が散って、雪みたいに降る。
高い場所に位置する僕らの部屋は、降ってくるというより舞い上がってくると言った方が正しいけれど。

「綺麗です」
「そうだね、綺麗。」

竜崎は窓を開けた。
暖かいような、少し冷たいような風が肌をかする。
舞い上がる桜に竜崎が手を伸ばした。

「‥届きません」
「あはは、運良く風が吹けば届くのにね。」

竜崎は風を見つめるように外を見ている。

「そんなに桜の花びら欲しいんだったら、外出て拾ってくればいいのに」
「意味が違うんですよ、簡単に届くものは面白味がありません」

竜崎はそう言いながら僕を見た。

「―だから夜神くんは面白いんです。」
「面白い?」
「はい、簡単に届きませんから。」

また竜崎は視線を外に戻してしまった。

「‥僕からしたら竜崎の方が届かないよ。」
「私がですか?」
「うん、届かない。竜崎はいつも違うとこ見てる。」

僕は竜崎の頬に触れ、視線を合わせた。
竜崎も僕を見つめる。

「夜神くんの方が違う所見てるじゃないですか」
「今はこうして竜崎だけを見てるよ?」
「私だって夜神くんを見てます。」

ぶわっと風が吹いた。
僕は咄嗟に片目をつぶる。
竜崎は両目をつぶってた。

だからキスをした。
軽く、甘く。

「‥いきなり何です?」
「いや、目瞑ってたから」
「目を瞑ってたら貴方は誰にでもキスするんですか?変態ですね」
「誰にでもする訳ないよ、竜崎だから。」

僕は視線を外に戻した。
竜崎は僕を見てる。

「‥髪に」
「髪?何かついてる?」
「花びら‥」

竜崎は僕の髪に触れ
ついていたらしい花弁をとってくれた。

「さっきの風でついたんだな。」
「そうですね」

竜崎は手のひらにある花弁を見つめていた。
小さくて可愛い花弁。

「‥よかったね、花びら手に入れられて。」
「はい」

竜崎は花びらを優しく握った。
なぜだか僕は無性にキスしたくなって竜崎の唇を奪った。
今度はさっきみたいな軽いキスじゃなくて、恋人だから出来るキス。
竜崎は苦しそうに喘いだ。

「‥なっ…いきなりっ‥何なんです‥?」
「キスしたくなったからキスした」
「欲望のままに行動するのは関心しませんよ」
「うん、ごめん」

僕は竜崎の頭を撫でた。
優しく、優しく。
君の濡れた唇が
可愛くて、愛しくて。

「‥夜神くん」
「ん?」
「太陽、暖かいです」
「うん、春だからね」

ぶわっと、
また風が吹いた。
春一番。
「あ」
風は竜崎の拳の中の花弁をさらって行った。

「‥油断したら風に奪われてしまいました。」
「残念だったね。」

竜崎が少し寂しそうな顔をした。
だからキスしたくなった。
さっきから僕、欲情し過ぎだな。

そう思いながらも君に口付けた。

「…油断、したらまたキスされました。」
「それは‥残念だったね」

また風が吹いた。
暖かいような
冷たいような

花弁が近くまで舞い上がってくるものだから
僕と君は手を伸ばした

届かないものほど
届きたいものはない





end






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