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執着―TORAWARE―
始動V
 奏南は――“絶世の”と云っても過言ではない程の美女だから。
 スッと通った鼻筋。知的さを滲ませる顔のラインは、けれど虚栄的でなければ、高圧的でもない。
 眉は綺麗なカーブを描いており、睫毛は瞬きするとバサバサと音がしそうなくらい、濃くて長い。
 二重の瞳は形の良いアーモンド型で、虹彩が淡い茶色。
 抜けるように白く澄んだ、陶器のように滑らかな肌の中にあって、紅い唇はとても官能的。
 肌にシミもホクロもなく、全てのパーツが絶妙に、精緻に配置されてるうえに、彫りが深いのは、母親が北欧の人間だから。
 神が丹念に、持てる技術の粋を結集して造りあげたような、それこそ“完璧な”という形容がぴたりと当てはまる『美』の具現。
 それは顔だけにとどまらず、細い首から続く、まろやかな肩のライン。長い手足のスラリとした様。適度に整ったボディライン。
 鈴を振るような、鼓膜を震わす耳ざわりの良い声に、やわらかな雰囲気。
 端的に言えば処女神のような美形。
 どんなに男の欲望にその身を奪われようと、絶対に汚(けが)されない透明感がある。水晶のように光り輝く美しさは、男の欲望を表面でツルリと流し落として、決して内側に取り込ませない。
 とにかく筆舌に尽し難い美女。爪の形までもが‘美しい’ほどに。
 それ故に、男達の愛と欲望の対象になり易く、化粧という己を粉飾する術(すべ)を持たなかった頃―主に学生時代― 彼女は多くの恋愛トラブルを引き起こし、巻き込まれた。
 だから、千人の人混みに混じっても一目でわかるような美しさを晒さぬように、懸命の努力をしている。 うつ向きがちに、様々な小道具でもって凡庸に、己の真の姿を隠蔽しているのだ。

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