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執着―TORAWARE―
縛W
 狭い空間に残された姉と弟―。
「差し入れを持ってきたのよ。禮の好きな冷製パスタにローストチキン、サラダもあるからね」
 手で払うような仕草で、テーブルの上を占領する禮の長い脚を退かせると、バスケットをテーブルに置いて、食事の準備を始める。「奏南…」
「ドレッシングはイタリアンでいいわよね。残さず食べるのよ」
「奏南」
 自分の呼び掛けを聞き流した姉の名を、少しきつく呼ぶ。
 膝に肘をつき手を組んだ体勢だから、自然と禮は前屈みになる。それは獲物を狙う獣を連想させる。
 強く呼ばれてやっと視線を合わせた奏南は、どきりとする。
「…何?」
 構えと、そこに僅かに滲む怯え―。それに気付かぬほど禮はおめでたくはないし、それを気にして目線を外すほど小心でもない。やっと合わせてくれた目線をそらす事なく、
「何故来た?俺には傍に居られたくないんだろう?」「だって、禮、ちゃんとゴハン食べてないでしょう。少し痩せた気がするもの。放っておけないわ」
 忙しく食事の支度をしながら、不自然にならないように目線を外す奏南。
 禮にとって、奏南の答えは求めているものではない。求めているのは『弟の体調を案ずる姉』ではなく、『一人の男』の体調を気遣う『女』。
 だから、イライラと不機嫌になる。
「さ、用意できたわよ。残さず食べてね、好き嫌いは…っ」
 座る禮の右手前で上半身を屈めていた奏南が、完全に身を起こす前に、禮は素早く奏南の細い腕を掴み、グッと己れの方に引き寄せた。
 不安定な体勢だったため、奏南はバランスを崩し、ちょっとだけテーブルにぶつかったものの、無事に禮の膝の上で横抱きにされてしまった。
 長くしなやかで、力強い禮の腕が、奏南の華奢な身体をガッチリと抱き込んでいて、そこから逃れられない。
「禮、離しなさい、禮!!」 昔みたいにパニックこそ起こさないものの、激しく身をよじって、禮から離れようとする。
 それが腹立たしくて、禮は片腕だけで『最愛で唯一の女』を抱え込み、自由になった手で、細くてやわな顎をグッと掴んだ。
 苦痛に歪む顔を無理矢理上げさせ、ギュッと瞑った瞼にキスをする。


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