儚き夢の欠片達(TOA) 〜九つ目の欠片〜 夜は良い。と、窓と云う切り取られた世界から外を見遣る。 静かで、幻想的で、(ふっと、此の侭。)闇の中に消えてしまいそうな夜が(綺麗だと思うんだ。)。 「シンクは、短冊にどんなお願い事を書いたの?」 つい十数分前。僕の部屋に(勿論強引に、だよ。)やって来たシノが、僕の隣で言葉を投げ掛けて来た。 嗚呼、そう云えば。今日は七夕だっけ。 なんてぼんやりと庶民の行事を思い出しながら、夢見る少女に返事を返してやる(くだらない。と、決まり事の様に。)。 織姫だとか、彦星だとか(何とまぁ滑稽です事、)。 所詮は只の星。つまり石だ。遠くに在って、太陽の光で輝いて見えるだけ(たった其れだけなのに。)。 「シンクにはロマンチックな部分が無いの?」 「そんなモノが在ったって、僕には何の得も無いよ。」 不満気に僕を見つめる彼女に、素っ気無い言葉を返してやった。 本当にくだらない。くだらない。なんてお子様なんだ。 アンタって、流れ星とかにも願い事する様な馬鹿でしょ。(って言ってやった。) そしたら君は(どうせ馬鹿ですよー。とか拗ねるんだよね。)。 「流れ星も天の川も織姫も彦星も、」 所詮は只の石くず達さ。 大きさや勢いに違いは在ろうとも、本質は変わらない。 嘲笑う様に口許に弧を刻めば。 「アンタはどんなくだらない願い事を書いたのさ、」 「秘密ー。」 「あっそ、」 別に隠されても良い。 どうせくだらない事に違いないのだから(だったらなんで僕は。)。 再度窓の外を見上げて、眩い石くず共を眸に映す。 「笹、外に在るから短冊掛けて来なよ」 「そんな幼稚な行動、お断りだね」 は。と哂って、机の上に置かれた二枚程度の(色彩豊かな。)短冊を一瞥。 知ってるよ。アンタが、短冊に書いた願い事。 白い。彼女の様に無垢な白い短冊に、儚げな(けれども、確かに。)黒い文字が踊ってた。 ズットズットシンクノソバニイラレマスヨウニ。 「くだらない。」 くだらない。くだらない。くだらない。 そんな事を願うアンタも、そんな短冊に目を奪われた僕も、今此処に存在する世界も人も何もかも。 凡ての事象が灰色で、世界はいつも無機質で(おやすみ。そう言って部屋を去った君の足音は良く響いた。)。 「此のくだらない世界を、僕の手で消せます様に。」 淡い黄色の短冊に、呟く様な言葉を書き殴る。 願いなんかじゃない。独りの部屋で、捧げた其れは誓い。否、(感情の残骸処理?)。 もう一枚。残された(彼女と同じ。)白い短冊。 僕には此れ以上の何かなんて無いのに。 何となく、其の白を持って。さっきよりも、しっかりとペンを握って(気が向いたから、孤独の中で仮面を外す。)。 「いつか」 いつの日か。 「アンタと、」 僕を願うアンタと。 「 」 なんてね。 ひらりと白い短冊を裏返して、自嘲的な笑みを浮かべたままベッドに身を沈める(柔らかい。)。 願い事なんてくだらない。そんなのは只の現実逃避だ。 そんな事を思いながら、僕自身も何処か遠くの世界へ行く自分を垣間見る(其れはきっと?) 織姫と彦星は死して尚僕等を見下し哂い蔑みながらも ずっとずっと美しく輝いていたと誰かが言うでしょう。 ( もし。僕が彼等の様に燃え尽きれば、君は僕に何を願う? 嗚呼。其れはきっと叶わないけれど。 ) ↓ 後書き(7/7了) ↓ 七夕。と云う事で行事に乗っかってみました。織姫と彦星。遙自身其れは只の御伽噺の様なモノで、其れ以上でも其れ以下でもないと考えています。 でも、シノは?絶対に織姫と彦星が願いを叶えてくれるとは限らない。そんな事は解ってる。じゃあ、其の反対は? 絶対に織姫と彦星が願いを叶えてくれない。と、此の世界の誰が証明出来ると言うのか。本当に願って欲しい訳じゃない。 只。シンクの望む何かを形にして欲しい。だけ。なのに、シンクは其れを拒む。形にしたら、残ってしまうから。 ずっとずっと一緒に。シンクもきっとそうしたいんだろうけど。通じ合っている様な。すれ違っている様な二人。 願いを書かないのは。もし、本当に此の短冊に願いを書いて、其れが叶ってしまったら。自分が今迄憎んで来た事が、限りなく無意味に近くなってしまうから。 叶わない事を前提に、己の野望を書いて。本当の望みは、やっぱり隠しておこう。そんな感じ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |