儚き夢の欠片達(TOA) 〜一つ目の欠片〜 眩しい。と、シンクは思う。 自室の机の上には、些か量の在る書類。 握られたペンは、僅かに動きを止めていた。 原因は窓の外。 晴々と世界を照らす太陽を、シンクは仮面越しに睨む。 顔の殆どを覆い隠している其れのおかげで、常人よりは遥かに光を遮断されているにも関わらず、シンクは此の晴天への不満を募らせていた。 太陽は、嫌い。 光が、嫌い(照らさないでよ、)。 自分が闇に身を置く者だと、思い知らされている様で(嫌いだよ。)。 雨が降らないか、降らないか。 そんな事を考えながら、もう一週間と数日が過ぎた。 世界の大多数からすれば、此の願い(なんて、純粋なモンじゃないけれど。)は酷く迷惑なのだろうけど、他人の事なんて如何でも良かった(自分以外は他人だったよ、)。 はぁ、と。本日十数回目の溜息を吐いて、再度ペンを走らせる。 机に広げられている書類は、みるみる黒に染まっていった。 「シンク、お茶持って来たよ」 コンコン、と。数回のノック音とほぼ同時に、補佐であるシノが部屋へ入る。 まだ返事してないよ。 そんな物頼んでない。 アンタってホントおせっかいだよね。 仮面から僅かに覗く口元に、貶す様な笑みを浮かべて彼女を罵る(可笑しい、ね。)。 そんな事気にしていないかの様に、シノは僕の傍にお茶とお菓子を置いて窓辺へ向かう。 差し入れられた品を口に含みながら、再度書類へと視線を戻した。 矛盾してるよ。 食べてるじゃん。 なんて、彼女は言わない。 そもそも矛盾なんてしてないけど(なんて、言い訳は彼女にばれているのだろうか)。 丁度小腹が空いていた。 只、其れだけ。 誰にも文句は言わせないし、何より君は言わない。 不意に、白い物体を手に窓を開ける君が気になって。 「人の部屋の窓に何してるのさ」 「てるてる坊主だよ」 ほら、と。 彼女が笑顔で差し出したのは、白いティッシュで作られたてるてる坊主。 嫌味な程真っ白な其れは、太陽の光を浴びて余計に眩しさを増す。 目が眩みそうな其れから(嗚呼、本当は)目を背ければ、アンタそんなの信じてるの、なんて哂う。 大体さ。 「此れ以上晴れたら干乾びるよ」 些か本気の言葉を吐きながら、溜息を。 そんな僕に、彼女は可笑しそうに笑い声を送り付けて。 何が可笑しいのさ、と言う前に、シノは言葉を紡ぐ(わざとかい?)。 「違うよ」 「シンク、雨が好きでしょ?」 「シンクの好きな雨が降るように」 「こうやって吊るすの、」 白く細い指が指し示したのは、窓辺に吊るされた逆さまのてるてる坊主。 シンクの為に作ったんだよ。 名案でしょ、と言わんばかりに微笑むアンタ(やっぱり、晴天は嫌い。)。 「馬鹿じゃないの」 「馬鹿で結構、」 貶しても、慣れたと言わんばかりに流す君。 振り撒かれる笑顔から(失明しそうな程、眩しくて)、目を背ける。 雨は、好き。 だけど(アンタが居たら、)。 日に照らされ、風に揺れるてるてる坊主をちらと見て。 「馬鹿じゃないの、」 毎日が、晴天。 ( 太陽が間近に在ったら、雨が降っても無意味じゃないか。 ) ↓ 後書き(6/20了) ↓ 自分が考えてる事を認めない。だから、否定して罵る。シンクって凄く不器用そう。光の様に眩しい君に。 太陽に近付き過ぎれば、やがては己の身を滅ぼす。なんて、話を聴いた事が在る。 もしも其れが本当ならば、僕は君に焼き殺されてしまうね。だから、半歩離れて。傍に居て。…そんな感じ。) 以前書いた作品を移転したモノです。 [次へ#] [戻る] |