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作者の書いたもの
4話 そして帰りに
「それではまた今度来てくださいね? その時は色々とお話が聞きたいですから」
「了解。手伝ってくれて有難う」

そう言いながら渡された書物、調理に対する知識が書き記された書物を持っている。
――因みに宮元武蔵の書き記した5輪書も見かけたので写本を借りてきた。
孫氏兵法や六韜、三略なども借りてきた。
いや〜、やっぱり小説書いてるとそれなりに色々な知識に貪欲となるからな〜。

「そんなに借りてどうするつもりよ」
「俺が書いてる小説に使えるかな〜って思って。戦闘や戦争を取り入れてるからこういったものを読んでるとそれなりに助かるんだ」

例えば三国志を読んで空城の計や増竃の法等と色々な計略……云わば考え方を知るのだ。
人間、生きている間にさまざまな知識を得るだろう。
しかしそこで得た知識を自慢するだけの輩とは最も恥ずべき事だ。
それよりもそれを応用した使い方を覚えた方が例え知識量で劣っていたとしても他人や自分の為につかえる分良い。

「そう言えば物書きって言ってたけど、何を書いてるの?」
「冒険と幻想を織り交ぜた物語。主人公は俺よりは若いけど学徒で、様々な事件や戦いを向かえながらも成長してゆく物語。最終的には何故か本人の知らない所で大きな出来事に巻き込まれる感じ」
「ふ〜ん……」
「聞いといて興味なさ気だな、おぃ」
「だって聞いただけじゃ何とも言えないもの。せめて読ませなさいな」

そりゃそうだ。
本屋だったら少し立ち読みしなければ買わないのと同じだ。
しかも今俺が言ったのは書物にすらなっていない、持込予定の物語だ。
パソコンに保存しているのでここで見せる事は不可能だ。
――いや。

「書き起こせば見せられる――か?」
「なら期待してるわ」
「まあ時間かかるだろうけどさ」

ノートに書くなら未だましだが、何で何に書き込むかが分からない今となっては難しいことではあるが――

「さて、後は食料か」
「何が必要か。何を買う必要があるかは理解しているから貴方は荷物もちをなさい」
「了解」

何を買えば良いのか俺にはまったくわからないのでそれが妥当だろう。
例え全部持たされたとしても無茶じゃなければ引き受けるつもりだ。

「ま、スキマで全部送るんだけどね」
「じゃあ今言った言葉の意味は!? と言うか荷物持ち頑張ろうと思った俺の決意は無駄かい!!」
「当たり前じゃない。家に着くまでに鮮度落ちちゃうもの」

……なら俺が今ここに居る意味は?
荷物持ち以上に自分の価値が見出せないんですが如何すれば良いんでせう?

「まあそれでも来る前に言ったと思うけど、何処で何が買えるかを貴方に教えるのが目的だから疲れさせて頭から抜け落ちても困るのよ」
「あ、そう言う事か」
「分かったなら付いてきなさい。複数の場所で買う必要があるし、それを把握するのに今日は使うから」
「まあ覚えやすいだろうけど」

変に発達して入り組んでしまった都会よりは未だ覚えやすそうだと判断。
無機質で似た感じのコンクリートが並んでいるよりは未だ良い。

「じゃ、行くわよ」
「へ〜い」

そして紫に同伴させてもらいながら歩く。
――多少ドキドキするけれども、それは緊張なんだろうな。
感情と言う感情は殆ど波立たない。その理由はただ面倒くさいからだけど……
例えこのドキドキが『好き』であったとしても、それは恋愛感情の『好き』ではないと思う。
俺は確かに東方を知っていて、旧作から全て所有してプレイもしてる。
しかし、彼女。若しくは彼女達が好きだったとしてもそれは信仰や崇拝に似たものに違いない。
――嫌な感じに……成人しちまったな。
作品を見て共感が出来なくなってゆく自分。キャラクターに入り込めない自分がどれ程つまらない人間になったのだろうか?
成長と言う人も居るが……、果たしてそれは成長なのだろうか?
そんな事を考えながら歩く。こんな時ばかりは俺よりも前で歩く紫の存在がありがたい。
考え事をして表情を変えていたとしても気が付かないのだから――





人間の里はそれ程広くも無ければ建物同士が密集している訳でもない。
それに暖簾や看板が下がっているし、外から見るだけで何が売っているのか分かるのでそれ程苦労はしなかった。
頭の中で軽く品揃えや値段。何処に何があるかを思い出せるようにリフレインしておく。
因みに買った物の大半は既にスキマを使って八雲家に送ったとの事。

「今度から食材が足りなくなったら貴方がこうやって買いに来るのよ? 一応私も手が空いてるときは来るけど基本一人で来る事」
「へ〜い――って、ちょっと待て!」
「何よ、いちいち後から突っ込みが多いわね」

後から突っ込みって何だよ!?
と言うか来た時の事を半ば忘れかけてたわ!!

「俺が、一人で? ははは、何を冗談仰いますか。私蒼野さんは一般人ですよ? そんな私が単身妖怪の居る道を突破とか無理、無理。途中で食われて無残に骸曝すわ!!」
「そう言えばそうだったわね。スキマ無効化するから少し忘れかけてたわ。――そうね……一番簡単な方法が有るけど」
「ならその方法を取ろう」
「え〜……」

え〜って何だよ。しかもすっごく嫌そうな顔をされたんですけど……
けど紫も一度ばかり嘆息するが――すぐさま何かを思いついたかのように手を打った。

「そうね。神社といえば何も博麗神社だけが全てじゃなったわね」
「……あの、もしもし?」
「えぇ、いいわよ。それじゃあその方法とやらを取りましょうか」
「え?」

とても嬉しそうな表情の紫を見た瞬間に怖気が走り、言葉を発した瞬間蹴りによって後ろ倒れに転ぶ。
その時だけスローに感じたが――
紫がものすっごい良い笑顔で微笑んでいるのを見たまま俺はスキマ送りされた。
そしてへんな空間を落下して行き、尻から着地する。

「痛ってーーーーーっ!!!!!」

物凄い痛みが脳裏にまで衝撃が突き抜ける。
大地と違って痛覚麻痺していないので痛いものは痛いのだ。
そして後を追って紫が優雅に降り立つ。
余裕丸出し、かつ扇で顔を半分隠してまるで――ではなく完全に馬鹿にしている。

「着地ぐらいしなさいよ」
「ほぉ〜う……蹴られて尻から落下してる人物に対してそんなこと言うんか……、あぁん!?」
「あら恐い。お姉さん襲われてしまうわ」
「外見的にはそれを許すし、認めるが言い過ぎると馬鹿にされるからな?」

そう言いながら立ち上がる。
地面と思った底は石畳で、周囲を見ればかなり広い境内らしき場所。
神社らしい場所では有るが――

「博麗神社?」

来た事が無いのでこの広さが博麗神社のものかどうかは分からない。
でも神社自体は日本に来てから何度も訪れたことが有るので雰囲気で分かる。
けど紫は扇をパチリと閉じて言った。

「違うわ。ここは守矢神社、二人の神様が祭られている場所よ」
「へ〜……、って! 完全に幻想郷の外じゃねぇか!」

因みに諏訪大社、戦国時代の武田信玄に厚く崇拝していた事で有名であり。織田信長(本人ではないが彼の軍勢)が焼き討ちしたことも記録として残っている。
守矢神社の元である守矢氏はその復興に諏訪氏と供に力を入れたそうな。
それなりに、と言うかかなり由緒正しく格式の高い場所である。

「まあ少しここで待ってなさいな。直ぐに用事を済ませてくるから」
「へ〜い」

尻も痛いので紫が去った後に俺は傍にある腰をかける場所に座った。
それに稗田家を出てから歩きとおしだったので多少助かる。
ふぅ、と息を吐くと頭をちょいちょいと触られた。

「?」

誰だろうと思って顔を起こすと竹の筒に汲まれた水を差し出された。
そして手から腕、体から頭と視線を動かすと――
そこには知った顔があった。

「はい、お疲れのようですのでこれでも飲んでください」
「お、有難う」

そう言いながら受け取るとゆっくりと水を飲む。
うん……美味い。
ひんやりとした水が喉を文字通り滑る様に通過してゆく。
浄水場を通した様な引っかかるような水ではないし、微妙に感じる鉄っぽい味も無い。

「美味い……」
「井戸水ですから冷たいですし、体にも良いんですよ」
「へぇ〜。山から流れてる川みたいにいい味してるな〜」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

そう言って緑色の髪の女性は両の手を合わせて綻ぶ様に微笑んだ。
それに少しばかり瞳を奪われる。
いや、いかんいかん……

「俺は蒼野って言います。少し所用で来訪させて頂きました」
「あ、御丁寧にどうも。私は東風谷早苗と言います」
「……」

何だろう……この感じ。
霊夢もそうだけど何でこの時代で同じ名前なんだろう。
名前を踏襲とかするのだろうか?

「どうかしましたか?」
「あ、いや。いい名前だな〜と思って。名前からして良い響きだからこんなに可愛く育ったんだと思って少し惚けてた」
「あ、そんな……褒めたって何も出ませんよ?」

そう言いながら片手を頬に添えてもう片方で肩を叩かれた。
嬉しそうだなぁと思う。

「そういえば変な格好してますけど歌舞伎者ですか?」
「すまん……俺は前田慶二にはなれんわ」
「何故そんな人物に繋がりましたか?」

ゲームのやりすぎだからです、はい。
戦国無双とかやってると歌舞伎者とか散々言っていたので覚えてしまったのである。
そりゃ首も傾げられるわな。

「異邦人みたいなものかな」
「あれ、蒼野さんって日本の方じゃないんですか? 見た目も十分日本人ですが」
「あ、いや。そう言う意味じゃないんだけど、なんと説明したものか――」
「待たせたわね」
「お?」

頭上から降ってきた声に反応して見上げる。
そこにはちょうど降り立つ紫の姿があった。
――それと更に二人背後に居るのも視界に入った。

「この神社の神様連れてきたけど――巫女さんのほうは既に手に入れたって訳ね。軟派な男」
「えっ!?」
「いやいやいやいや! 何その軽薄なキャラ扱い!? 俺は普通に水を恵んでもらって話をしていただけでこれっぽっちもそのような事はしていませんでしたよ!?」
「それも……少し違いますよね?」

あれ? 味方に回って一緒に否定してくれるはずの早苗さんが微妙に中立か紫サイドに?
何も変なことしていませんでしたよ? 吾等が主に誓います、アーメン……

「えっと、なんか私たちは席外したほうが良さ気?」
「そうだねぇ……けど私としては何処の馬とも分からない人間に早苗を取られるのは嫌だね」
「だから! 諏訪子と神奈子は自重して普通にしてくれ! 俺を苛めて楽しいか!?」
「「楽しい」」

うん、これが普通だって分かってましたよ?
けど弄り倒されるのは俺の性にあわねぇんだよ!

「これがさっき言った未来から飛ばされてきた人間よ」
「え? 未来から……ですか?」
「へぇ〜、格好もかなり違うもんだね。和服とは違って動きやすそう」
「けど私にゃ少し軽そうにしか見えないね。なんだか慎みとか無さそうに見えるよ」

何かすごい言われようだ。
早苗はビックリしてるだけだけど、神奈子さんや……それは言わない方向で頼みます。

「で、私たちの神力を込めたお守りを作ればいいんだよね?」
「妖怪とか妖精が手を出せない程度に……だったね」
「??」
「えぇ。そのようにお願いしますわ」

早苗はやっぱり理解していないようで疑問符を大量に浮かべている。
そんな彼女に説明するように諏訪子が説明する。

「まあ簡単に言うとだね。そこの人間が住んでるのは妖怪が多い地域なんだって。だから襲われない様に魔除けを作って欲しいって事」
「あ、そう言う事ですか」
「もうここの妖怪から話は聞いてるから後は作るだけなんだよ」
「? 妖怪が魔除けを頼むってのもおかしくないですか?」

うん。この早苗さんは早苗さんらしくていいな〜……
まだ清楚と言うか暴走してなくて。
と言うか、二次創作で暴走させすぎてるのが目立って、早苗さんは早苗さんじゃなくなったとも言える。
常識を捨てたからと言って其処まで非常識にはなってないはず――

「あの、そう言えば神力を籠めるのは良いんですけど。何処に籠めれば良いのでしょう?」
「そう言えば私も彼もそう言ったものは持ってきてないわね……」
「ダメダメじゃ〜ん」

因みに皆して何に魔除けの効果を付属させるかで迷った結果、左手首につけているブレスレットに籠める事になった。
ただしサイズがサイズなので中級以上の妖怪等になると効果が皆無、もしくは薄くなってしまうが――
まあ無いよりはましだろうと思う。

「ま、私並みに長生きして有名な妖怪はそう居ないし会う事も多分無いわよ」
「因みに神様とか妖精とかは相手によりけりなんで宜しく〜」

つまり神奈子や諏訪子並みの神様、更には紫には効かないと言う事だ。
まあ其処まで強力じゃなくても在るだけで助かるといったものだ。


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