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「そっ……某は退出致します故、何か変事がございましたら御呼び立て下さい!でっ、では!」
それこそ本当に急に侍医さんは部屋から飛び出してしまった。
………なんか私の事を見てた気がするのは気の所為かな、うん。
「なまえちゃんの事怖がってたじゃん、ほら、やっぱり鬼d「黙って。」……はい。」
隣に座っていた佐助が先程の失礼極まりない台詞を再び言いかけたので、強めに制止をかける。
萎縮して素直に正座した佐助の姿に、完全に上位を取ったな、とほくそ笑んでから、枕元にあった粉に気が付いた。
緑色をしているし、金物の乳鉢に入っているという事は、恐らく侍医さんが作ってくれた薬だろう。
く、とそれを引き寄せて指を突っ込み、粉末を嘗めてみた。
「あ……カタクリが足りない……それから山椒も……」
「え?」
「んー……、でも弟切草入れたのは正解!腕のいい侍医さんだったんだねー。後でお礼しなきゃ……」
私の様子に呆気に取られた佐助は、同じように乳鉢に指を突っ込んで粉を嘗めていた。
が、余りに苦かったのだろう、すぐに眉間にシワを寄せる。はは、ばーか。
「弟切草とか、カタクリとか……よく分かるね……にっが……」
「んー……薬が効きにくい体の癖にこんな持病持ちだから。いろんな薬試して、結局漢方に落ち着いたんだ。」
「それにしたって人間技じゃないよ?」
「それ忍者に言われたくない。」
べー、と舌を出した佐助を笑ってから、自分の事を喋ってみた。
初対面から換算したら、もはや彼に伝えていない事などないのではないだろうか。
それなのにまた気に障る事を言ってくれたので、手の平に盛った薬をふっと吹き掛けて、顔中を漢方まみれにしてやった。
あ、山椒が入ってたんだっけ。
……目に入ったら痛いだろうな。
そんな事を思いながら、視界の端にのたうちまわる佐助を映した。
++++++++++++++
「申し訳ありません……!」
「いやいや、こちらこそ……!」
後日。
医務室に足を向けると、侍医さんがお仕事中だったのでお礼を言うべく声をかけた。
案の定、肩を大きく跳ねさせて、ガクブル。
その様子に苦笑してしまうと、侍医さんはどうやら退出してしまったことを反省していたのか、開口一番に謝罪する。
丁度よかった。
別に怒っていた訳ではないのですぐに謝罪を受け入れると、何故出ていってしまったのかを聞ける。
「いえ………、あの佐助様にあれ程の対応が出来るならば……それなりのお力の方だとお見受け致しましたので……」
「……は?」
「あ、いえ、ですから……」
余りにも気の抜けた私の返事の所為だろう。
もう一度説明しようとしてくれた侍医さんの言葉を途中で切って、今一度頭を整理しよう。
あの、佐助様?
なにが「あの」?
あのヘタレっぽくて、初対面の私にでさえこき使われていた佐助になんの威厳が?
「なまえ様……でしたよね?佐助様は、この武田の庭番首領ですよ?その冷酷さと実力を知らぬ忍は、おらぬ程の……」
「……いやいや、ご冗談を……」
嘘だ嘘、
あの佐助が全国展開で名を連ねる忍者だなんて。
え、それって私、
あの時結構命の危機だったんじゃあ……!
思い返して冷や汗をかいた。
私は相当な命知らずだったようだ。
(………戦国の世に倣えって、ことで……)
そう勝手に判断づけた私の頭、ぐっじょぶ。
そう、なら良いよね。
佐助に対して私は下剋上したって事で!
(以外と厳しいじゃん、戦国ライフ……!)
がっくり肩を落とした。
せっかく楽に生きられるとおもったのになぁ……
まぁ、佐助を鴨に出来たのは良い狩りだったと思っておこう。
「あの……肩、お揉みしましょうか…?」
「お願いします………」
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