3 今の私が着ているものはお気に入りのワンピースではなく、女中さんの着ているものと同じ着物。 和服なんて着慣れない私には帯がきつくて少々苦しいのだけど、やはり此処は日本人らしい格好が状況に合う。 「ほー、こんな高そうな着物?着たの七五三以来かも。」 「高くないよ、下女の着物なんだから。てゆーか成人の儀とかしてこなかったの?」 「成人の儀?……ああ成人式か。なんか招待状来なかったからいいかなーと……」 「なんて適当な……」 もはや軽口を叩ける仲になった佐助に連れられ、私はここの下女達と働く事になった。 炊事か洗濯か掃除か、下女達の中でも仕事分けがなされているらしく、どれかには必ず属す、というのが決まりらしい。 (奥女中は?と言ったら頭を叩かれた。) (何でよ?) どれか一つ選べと言われ…… 一、炊事はインスタントしか出来ない 二、私の部屋の散らかり具合は壊滅的。 以上の理由をもってして、迷わず洗濯を選択(断じて洒落を言った訳じゃないと思って欲しい)したのだが、どうやらミスったようだ。 「ふひゃ、俺ひゃまは旦那んとこひくひゃら!(んじゃ、俺様は旦那んとこ行くから!)」 「う、ふひゃけんなばひゃひゃすけー!ぅえっげっほ!!!(ふざけんな馬鹿佐助)」 悪臭、悪臭、悪臭!!!! 山のように積まれた着流しから漂うこの汗臭さは、最早毒ガスを脳裏に思い浮かばせる程の攻撃力を有していた。 無駄に熱い武田軍の稽古後、放られた(本当は!)白い道着が堆く積まれ、それらを洗うのが洗濯係の仕事だと言うのだ、奴は。 「洗濯機もないのにこの量を手洗い?!何考えてんのよ!?あー……っ、鼻が馬鹿になった!」 鼻が利かなくなればもう諦めもつきますよ。 がっさり山に手を突っ込んでは洗い樽に放り、全てを浸したら盥に移して一つ一つを洗濯板で揉み洗う。 慣れない作業の所為で、さっきから洗濯板に指先まで擦りつけてしまっている。指が痛い! もうそろそろ流血事件が起きそうだぞ! 「ほうら、なまえちゃん頑張って!」 「あたしらもう終わっちまうよ!」 「ひぃ!皆さんお早い……!」 洗濯仲間がいたのが救いだと思っていたが、一人のノルマがきっちり決まっている。 何年とこの時代の洗濯をしてきた先輩方に敵うはずなどないというのに、おばさま方はきゃっきゃっと私を囲んだ。 くぅ、若い者虐めか……! と身構えたが、すっと伸ばされた腕は私の盥の中から一着の道着を取り出し去って行く。 「ほらほら、貸しなさいな!」 「今日は特別だよ?次からは頑張りな!」 「うぅ……っ!ありがとうございますぅうう!!」 「あらあら、どっかの虎若子みたいねぇ。」 そうからかった先輩方は、真っ白になった道着を大きく広げた。 私がどう頑張っても白くならないのに、それはまばゆい程綺麗。 あ、なんか聞いたことあるよ。 インドのガンジス川?あそこで綺麗に出来るのは現地テクがあるって話。 (なるほど、それと一緒か) 「お姉様、その技術伝授して下さいっ!」 「あらやだお姉様だなんて!!しょうがないわねぇもうっ!」 白くなる道着に微笑みながら、私はちょっとしたチャレンジを心に決めていた。 こうなったら、少しでもこの生活、改革してやる。 [*前へ][次へ#] |