短編
変態
9月初旬の体育の授業。ちょっと前まで夏休みだったわけで、当然その暑さが完全に引いたわけではない。寧ろ7月より暑い。残暑どころじゃない暑さが猛威を奮っている。
走り終えた男どもが体操着のシャツの裾を捲って風を入れたり汗を拭いたり、あまつさえシャツを脱いで上半身裸になりタオルやデオドラントシートで体を拭いたりしているのを見て、私はぽつりと呟いた。
「あー、興奮する」
「何が?」
直ぐに反応を返したのは、隣にいた佐上くんである。
「あいつら、自分が視姦されてる可能性について、ちっとも気付いてないんだろうなーと思うと、ぞくぞくしちゃって」
自分が男だからって無警戒な様子に、無垢なものを汚しているような背徳感が興奮を後押しする。勿論やつらが無垢だなんて思っちゃいないが、女子と違って危機感が薄いのは事実だ。世の中には、私のような変態女や同性愛者がゴロゴロ居るというのに。いや、ゴロゴロは居ないか。でも一定数は居るというのに。
ローテンションのまま割と変態発言をした自覚の有る私は、佐上くんの反応を伺うべく隣を見た。佐上くんは私とさほど変わらないローテンションのまま、無表情で頷いた。
「ああ、俺が黒ストの女の子見るとぞくぞくするのと一緒か」
佐上くんは黒スト派らしい。
私はニーハイ派だけど黒ストも嫌いじゃない。
佐上くんがニーハイ風タイツ派だったら全面戦争も辞さない構えだが、黒スト派で良かった。
「黒スト好きなんだね」
「黒スト履いてる女の子が好きなんだ」
真顔である。涼しい顔してオープンスケベだったらしい。そういえば涼しい季節には、彼はあまり目を合わせてくれない。照れているわけでも不機嫌なわけでもなく、黒ストに包まれた脚をガン見していたのか。納得した。ということは、脚フェチの気も有るんだろう。
「昔フランスでは黒いストッキングって娼婦が身に付けるものだったの知ってる?」
佐上くんは黒ストの興奮ポイントについて語りだした。
「その話を知らないならそれはそれで萌えるし、その話を知ってて興奮しながら何食わぬ顔で黒スト履いて生活してる可能性を考えるとそれだけで抜けるし」
真顔で萌えるって言ったぞこの人。抜けるって言ったぞこの人。
「娼婦ってことは、ガーターストッキングかな」
確かにエロいなぁ、と納得する私に佐上くんは頷いた。
「たぶんね」
しかし、そうか。
佐上くんは黒ストに興奮するのか。ということは。
「私の脚にも興奮した?」
毎年秋冬は黒ストかタイツの私が問い掛けると、佐上くんは目を泳がせた後に顔を背けた。
「友達だから答えないでおく」
それもう答えたも同然だよね。
佐上くんの首筋を、暑さのせいだけじゃなさそうな汗が伝っていくのを、私はねっとりと眺めた。うひゃー性的ー。
「それは残念」
興奮した、と言ってくれれば、押し倒す決心もつくんだけどなぁ。友人だからなんて言われてしまえば断念するしかない。今年も黒ストを履いて、うっかりガーターで、誘惑なんて楽しそうなのに。
ていうか私、わりと解りやすく口説いてるつもりなんだけど、いつになったら気付くんだろうか。変態性がバレきっているのが敗因か、本気にされてないのかもしれない。
「黒ストも良いけどナマ足も良いよね」
「……ああ、うん。黒ストが特別なだけで、ナマ足も好きだ」
「彼氏出来たら、足の裏にちゅーしてもらおっかなぁ」
流石にこれは冗談だけど。
と思ったら、佐上くんの返しは本気だった。
「それ楽しそうだな。彼女出来たらしてやろう」
なんかもう、佐上くんは私とくっつくべきだと思うんだよねぇ。これだけ性嗜好が被ってると。
気付かれてなくても、友達だと思われても、そのうち理性焼き切ってやるから、まぁ、べつに良いけど。
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