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短編
痩せ我慢する面倒くさい大人たち



 きれいなものがすき。
 きたないものがきらい。
 だから、きれいになりたい。
 きれいなわたしでいたい。

 あなたはわたしを好きだと言うけれど、わたしはきれいでも可愛くも無い。自信が無いから受け入れられない、自意識過剰な人間不信なのです。
 あなたはわたしを好きだというけれど、わたしはあなたを好きでは無い。もしかしたら好きなのかもしれないと、ときたま思うだけで確信できない。どっちつかずの駄目女なのです。
 わたしは美意識だけが高くて、美しいあなたを嫌いになることなんて出来っこないけれど、だからこそ、きれいになれなくてきたないわたし自身をあなたに近付けたくないのです。わかっています、身勝手だって。わかっています、わたしが隣に立ったところで、あなたが美しいという事実は変わらないと。
 ねぇ、こんなわたしを好きでいて、あなたは傷付き続けているでしょう。

 わたしはきれいなものがすき。
 わたしはきたないものがきらい。

 でも、大切にしていたきれいな硝子細工を粉々に砕いてしまいたくなったり、棘で指を傷付けたとしても薔薇の花弁を毟りたくなったり、降り積もった初雪の白を踏み荒らしてしまいたくなったりもするのです。我慢はするけれど、それが他人のものであれば尚更。
 あなたが他の誰かを可愛いと褒める度、わたしはきれいになれない自分を思い知る。
 わたしはきれいなものが好き。けれどそれが手に入らないものならば、いっそこの手で。そう思ってしまう心はきれいでは無いのでしょう。
 ねぇ、わたしを好きだと言うあなたは、わたしをみにくくするだけでしょう。
 それでも離れられないのは、わたしが最初から、きれいになんてなれない、ただの女だからでしょう。


***


 きみが返事を保留にする理由、知ってるよ。
 僕が直ぐに目移りするから、その度きみも僕から目を逸らそうとするでしょう。
 嫉妬なんかしたくないんだよね。
 僕を好きになんか、なりたくないんだよね。
 でも。
 汚くなったきみを、見たい。



 昔から、きれいなものが好きだった。
 よごしたくなる、きれいなものが。

 洗濯物のシーツは泥だらけにしたし、サンタクロースなんていないと弟に教えて泣かせたし、雪が積れば喜び勇んで踏み荒らしたし、家の庭の百合の花は残らず手折った。そうすると怒られるでしょう。でも、ちっとも反省なんてしていなかった。いつだって次の獲物を探していた。

 そうして最後に見つけた獲物。
 ちょっと潔癖な心と横顔。
 ふらふらしっぱなしの僕には、それがとても魅力的。
 長い睫が震えて、そっと瞼を伏せて、自嘲気味に笑みを浮かべる口元。
 僕が目移りする度に、すっと顔色が青褪めていくの、知ってるよ。
 近付かない為に変な言い訳をして、そっと離れようとして、でも僕が卑怯にも好きだと泣いて縋るから逃げられなくて。
 きみはいつまでも僕に怯えて、自分にも怯えて、けれどそれを隠そうとして失敗している。そういうところが可愛いなんて、言ってもどうせ信じてはくれないだろうね。

 きみはとてもきれいだから。
 はやくよごれて、おちてきて。

 僕の告白を否定する度に、辛そうな顔をして。僕が傷付いているなんて、きみは思い込んでいるけれど、本当は全然そんなことないんだ。信じてくれないきみは臆病なうさぎみたいで可愛いし、断る度にその潔癖な心に少しずつ傷が入るのが分かるのも楽しい。
 良いよ、信じてくれなくても。僕は傷付いたりしないから。僕は大丈夫だから。
 好きじゃないと言いながら、そんなに大切にしてくれなくても、勝手に好きだと言い続けるから。





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