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短編
一括返済お断り(※恋愛)



 期待なんてしない方がうまくいく。そうして暫くすれば、この気持ちも冷めるだろう。
 女の気紛れな性分は周囲にはよく知られていたし、女もそれを知っていた。そして確かに、女の予測は当たっていた。

 ある日、女は唐突に自覚した。

「冷めちゃった」

 柔らかい毛布に口元まで埋もれる男の顔を見ながら、別れの挨拶くらいはと、その額に口付けを落とした。男と初めて体を繋げてから、ちょうど二年目の朝だった。今回は随分と長続きした方だ。
 下着とスーツを身に着け髪を整えているうちに、何故か楽しくなってきて、鼻歌を歌いながら男の部屋を出た。ただ側にいて体を繋げただけの女は、男の部屋に私物を置くこともなかったから、身一つでその部屋を出るだけで良かった。
 ふと気が付いて、女は男の秘書に連絡を入れておくことしにた。行方不明と思われて妙な事態にならないように、予めもう会わないことを伝えるのは礼儀だろう。

「あ、みっつん?」
『ついに冷めたのか』

 女とは旧知の仲の秘書は女の頼みを快諾し、それ以降、男が女を呼び出すことはなくなった。
 ――が。
 代わりのように、男の秘書となった小学校からの知り合いが、女を呼び出すようになっていた。

「社長、ハリに未練有るっぽい」

 スーパーの籠に人参とジャガイモを放り込みながら、男の秘書――三ツ井が言った。ブランドもののスーツと安っぽい黄色の籠があまりにも不釣り合いだが、女こと針谷がそれを気にすることは無い。

「ラブ? ウォンツ?」

 針谷は小さく笑いながらキャベツを選んでいる。なるべく小振りで重いものを。

「ラブではねーな。プライド?」

 三ツ井は今までに入れた野菜を籠の片側に寄せ、キャベツを入れるスペースを作る。針谷が選んだキャベツを入れた。

「私はラブが欲しいのよねー。ぎぶみーゆあはぁと」
「自分はやらねー癖に」
「等価交換なの。くれたら返すわよ」

 缶詰めのコーナーに移動する二人は、今度はイタリアントマトの水煮とコーンを探しだした。ついでとばかりにツナ缶も放り込まれる。

「みっつんの手料理にはラブが有るわよね」
「そうだな」

 あっさり頷いた三ツ井に、針谷は探るような視線を送る。
 三ツ井は漸く見つけたイタリアントマトの水煮缶を手に、針谷の方を向きもしないで言った。

「今、二十年分貯まってるから、そのうちローンで返せよ」





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