短編
言わないで、わがまま。
「愛されたい」
唐突に彼女が言った。
椅子の背もたれに体重を掛けて、ずるずると沈み込んでいく体。
「寂しい」
彼女は虚空を見詰める。
寂しい?
此処に俺が居るのに。
ちゅ。
「まだ寂しい?」
至近距離で訊ねると、彼女は微笑んで俺の首に腕を回す。
だから改めて、唇を重ねた。
あ、寂しい。
何となく理解した。
彼女の唇は、さらりと冷たい。
冷たい、寒い、寂しい。
それらの感覚は、よく似ている。
「私のこと、好き?」
「…」
言葉の代わりに体を寄せる。
絡めた指も冷えていた。
笑顔は暖かい。
唇と指先は冷たい。
温めるのは、俺でなくちゃならない。
彼女は愛されたいと言う。
俺は彼女を愛している。
求められたら甘やかすし、愛する。
「好き?」
「…」
開いた口に舌を突っ込んで、口付けは深いものに移行する。
愛してるよ。
これ以上無いくらい。
俺の心が見えたなら、きっと彼女は泣き出して逃げようとする。
勿論、逃がさないけど。
言葉に出来ない「愛してる」。
もしも口にしたならば、一つでも枷が外れたならば。
彼女の心を壊すまで縛り付けてしまうだろう。
「好きよ」
――知ってる。
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