[携帯モード] [URL送信]

短編
言わないで、わがまま。



「愛されたい」

唐突に彼女が言った。
椅子の背もたれに体重を掛けて、ずるずると沈み込んでいく体。

「寂しい」

彼女は虚空を見詰める。
寂しい?
此処に俺が居るのに。

ちゅ。

「まだ寂しい?」

至近距離で訊ねると、彼女は微笑んで俺の首に腕を回す。
だから改めて、唇を重ねた。

あ、寂しい。

何となく理解した。
彼女の唇は、さらりと冷たい。
冷たい、寒い、寂しい。
それらの感覚は、よく似ている。

「私のこと、好き?」
「…」

言葉の代わりに体を寄せる。
絡めた指も冷えていた。

笑顔は暖かい。
唇と指先は冷たい。
温めるのは、俺でなくちゃならない。

彼女は愛されたいと言う。
俺は彼女を愛している。
求められたら甘やかすし、愛する。

「好き?」
「…」

開いた口に舌を突っ込んで、口付けは深いものに移行する。

愛してるよ。
これ以上無いくらい。

俺の心が見えたなら、きっと彼女は泣き出して逃げようとする。
勿論、逃がさないけど。

言葉に出来ない「愛してる」。
もしも口にしたならば、一つでも枷が外れたならば。
彼女の心を壊すまで縛り付けてしまうだろう。

「好きよ」



――知ってる。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!