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短編
松本さんと私



「ふざけんじゃないわよあのビッチ体だけの癖して、頭にいく養分全部乳にいってんのよ決まってる」

 忌々しげに怨磋の声を上げる慶子の顔はまるで鬼婆、いやはや彼氏が松本さんの方にいったのも頷ける。曲がりなりにも友人だから口には出さないけれど、彼氏の存在に胡座かいて女を磨こうともしなかったお前の自業自得。本人も解ってるみたいだけど。
 あと松本さんは体だけじゃなくて顔も良いよ、性格知らないけど。
 然しまあ、松本さんが女子に嫌われてるのは事実な訳で…気になる。実際どんな性格してんのか。性格悪くても許されるのが美女ってもんだと思うのよ私は。だから此処まで嫌われてるとなると逆に気になる。

「マジ最悪あの女、あんなのに引っ掛かる男も最悪。忘れてやるわよド畜生、千景、今日はやけ食いするわよ付き合いなさい」
「はいよー」

 今日は無理っぽいから明日、松本さんに話しかけてみよう。



「と、いうわけ」
「あはははは!」

 笑われた。笑いすぎて噎せて涙目になっている松本さんだけれど、今の説明の中に何か可笑しなところが有っただろうか。出来うる限り簡潔に分かり易く説明したつもりなのだが。

「何か面白い?」
「全部面白い!」

 何で声掛けてきたのかって聞いたのは自分の癖に。目立つなぁ、食堂で爆笑する美女。

「で?」

 松本さんは完璧な上目遣いで私を見つめてきた。その笑顔プライスレス。いや、百万ドル?

「でって」
「実際あたしはどう?」

 私が松本さんと話した感想か。確かに性格はよろしい感じでは無いけれど、ビッチというより小悪魔。
 真面目に考えて、…うん。

「嫌いじゃ無いね。ああでも今の小悪魔スマイルよりも、さっきの全力な笑いの方が好き。可愛かったよ、あの笑顔」

 取り敢えず思ったこと全部言ったら、ぽかんと呆けた顔をされた。

「…あたし今、ビッチで良いから貴女に抱かれたいって思ったわ」

 いや私が男だったなら素敵な申し出だけどさ。苦笑すると腹部に衝撃。抱きつかれたっていう。

「あたしとお友達にならない?」
「喜んで」

 おっと即答してたよ口が勝手に。でも勿論、美人な友人なんて大歓迎に決まってる。然し松本さんと仲良くなったと知れたら慶子がキレそうだ、…別に関係無いか。交友関係に口出しされる覚え無いし。
 正面にある上機嫌な松本さんの顔を見て、色々と思考を放棄した。

「つーか食べない?」

 目の前のA定食の唐揚げが冷めてしまう。冷めた揚げ物って最悪だと思うんよ。
 提案すると、「それもそうね」と頷いた松本さんが顔の前で手を合わせた。

「「いただきます」」

 つーか松本さんうどんとか食うの。麺類って言ってもパスタとかそういうお洒落なもの好みそうな外見なのに。ずずずって啜るのは確かに正式な食べ方だけど、いやぁその豪快さは…意外性に惚れるね。美味しそうに食べるなぁ。
 味噌汁を啜りながら松本さんの食事風景を眺めていると、ぽん、と肩に誰かの手が置かれる。うお、吃驚して凄い音立てて味噌汁飲み込んじゃったし。誰だよもう。

「千景」

 …やっべ。

 橋を置いて振り向くと、笑顔の慶子が居た。もしかして修羅場ってやつかい、初体験だわキャッ!みたいな。

「あんた松本さんと仲良いの」

 うわ凄いリアルに青筋立ててる人って初めて見た。

「今仲良くなったとこ」
「……はぁん?」

 お前柄悪いよ、何その低い声。と、松本さんが箸を置いて手を合わせた。

「ごちそうさまでしたー」

 ちょっと空気読もうか君。ぎょっとして見ると相変わらず可愛い笑顔な松本さん。

「千景ちゃん食べないの?」

 あ、慶子が真剣にいらっとしてる。完全に軽く見られてるもんね、もう見事にアウトオブ眼中っていうか。一方的に敵視してる人間としてはむかつくだろうよ。
 余りにも相手にされていない慶子に、可哀想なものを見る目を向けてしまった。思いきりザコキャラ扱いされてる友人を目の当たりにすることになるとは思わなかった。実にやるせない。

「あんたねぇ、」
「あ、松本さん。こいつ梁瀬慶子、よろしく」

 マシンガントーク三秒前の慶子の台詞を遮って言うと、松本さんは首を傾げた。

「…千景ちゃんの友達?」
「うん」
「……そう、」

 松本さんが、にっこりと小悪魔スマイルを浮かべる。あれ何か嫌な予感?まぁ相性の悪そうな二人が鉢合わせした時点で今更だけど。
 そして投下された爆弾発言。

「梁瀬さん。千景ちゃん貰うわね」
「あげるわけないでしょふざけんのも大概にしろよ。友達まで奪われてたまるかこの性悪が」

 始まるキャットファイト。慶子は松本さんに対する評価をビッチから性悪にシフトしたらしい。小悪魔だと思うんだけどなぁ。



 全くもって嬉しくないハーレム状態に陥った私は、暫くの間、一部の男性諸君から妬みの眼差しを注がれる羽目になるのであった。





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