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短編
fall in like.

 駅の中で、見慣れない制服の見慣れた後ろ姿を発見した。今日はラッキーな日だ。

「犀川!」

 一瞬後の彼女の動作を予測する。きっと彼女はゆったりと振り向いて、チェシャ猫みたいな笑顔で俺の名前を呼ぶのだ。

「木内ぃ?」

 ――ほら、ね。



*****



 俺こと木内錦と彼女こと犀川サヨリが出会ったのは、中学のときのことだ。

「犀川サヨリでございますよ。よろしくぅ」

 から始まった自己紹介。ロックをこよなく愛する彼女だが残念ながら音痴であるという旨のそれを聞いて、俺は直感した。あれは間違い無く変人だ、と。
 それから、そのにんまりと満足そうな笑顔にビビッと来ちまったのだ。

(あいつと居たら、きっと楽で楽しくて、絶好調に青春できるんだ!)

 恋じゃなくて好意に落ちる、なーんてな。そうして俺は友情にも一目惚れは在るってことを知った。
 俺と犀川は親しくなって、勿論他にも友人はいるけど親友は互いだけだった。付き合ってる?って聞かれたことは不思議と無い。俺らの空気は恋人というには淡泊で、底抜けに明るすぎたから。
 犀川と出会ってからの中学生生活は絶好調に青春して過ごして、すげぇ楽しくて、それから俺らは別々の高校に進学した。
 だから、見慣れてる背中に見慣れない制服。時間帯が丁度良いのか、この駅で犀川と遭遇するのは初めてじゃないが、それでもやっぱり見慣れない。紺色のブレザーよりも、中学時代の印象が未だ鮮烈すぎて。
 いつも一緒だった犀川との時間が減るというのは突然すぎて、たまに見る犀川の顔に焦らされている気がする。

「前にも思ったけれどねぇ」

 独特のイントネーションで、独特の笑い方で、犀川はそこに居る。

「なんだよ」

 首を傾げると、犀川はにんまり笑顔を消して、物凄い真顔で言った。

「木内はね、学ランの方が似合うんではなぁい?」

 なんだよ。と今度は心の中で言う。

「犀川こそ。セーラー服の方が似合ってただろ」

 なんだよ。同じこと思ってたのかよ。
 顔を見合わせて、俺は吹き出し、犀川はにんまり笑顔でけたけた笑う。

「あぁ、電車だね。ではさらば、また会おう」

 軽やかに車両に乗り込んだ犀川のブレザーは、さっきよりもしっくりくる気がする。
 おいてかれる錯覚なんて、馬鹿みたいな、ほんとにただの錯覚だったのだ。





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