短編 可愛くない後輩(※青春) あたしは新聞部に所属している。文章は持ち回りだけど、記事の全体レイアウトなんかは三年生がやっていて、今回はあたしの担当だ。 「サチさん」 「目黒先輩と呼べや」 PC実習室に居残ってパソコンに向かっていると、後輩の新谷が入ってきた。新谷は新聞部のカメラマンだ。一年生ながら、写真の腕はなかなか良い。 「あんたってほんと男みたいっすよね」 「口を慎め後輩」 問題は、アレだ。 全くもって可愛くないことだ。 「たかが二年差で何言ってるんすか」 「いや、学生の二年差はでかいからな?」 礼儀は大事だ。 「サチさん」 「目黒先輩って呼べっつってんだろ」 「だって呼びたいんすもん」 「かわいこぶるな。可愛がるぞ」 「サーセンっした目黒先輩」 余りの即答に、若干傷付いた。 「そんなに嫌か」 「積木先輩みたいになりたくないっす」 積木光一は新聞部の二年生である。簡単に説明すると、変態だ。 確かに、奴が変態化したのはあたしが甘やかし過ぎたせいかもしれない。 「アレはあたしの顔が好きなだけだ」 ちょっとナルシスト発見っぽいが事実である。積木はことあるごとに「あぁんっ、やっぱり目黒先輩の顔大好きですぅー」と抱きついてくる。酷いときはキスを迫られる。気持ち悪ぃ。 「…先輩の、」 「ん?」 ぼそりと新谷が呟いて、あたしは顔を上げる。 「中身も別に、俺、嫌いじゃないっすけどね」 言って、新谷は実習室を出て行った。何しに来たんだあいつ。ていうか、言い逃げかよ。 「…可愛いじゃねーか」 ちょっと赤くなってた顔を思い出して、笑った。 ――やっぱり可愛がってやろ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |