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GOLD RUSH!
大食い絵本7

 倉間の最低トークに脱力しつつ付き合いながら、無駄に爽やかな空間を歩いていると、隣から小さな声が上がった。

「あ」

 隣に居るのは倉間だ。当然、声の主も倉間ということになる。
 何かあったのかとその視線の先を追い、私も「あ」と小さく声を漏らす。

「何かきもいの来た」
「小鳥ちゃんって動じないね」

 何やらずるずると、草の上を腕が這っていた。腕の通った後は、煙を上げて爛れた草が倒れている。映画に出てくる宇宙トカゲの体液みたいに、あの腕からは酸性の劇薬でも滲み出ているのか。

「何あれ」

 取り敢えず、嘘は言わないらしい倉間に尋ねてみると、倉間は楽しげに微笑んだ。

「穢れの端っこかな」

 良くないものであることだけは確からしい。
 呑気に会話している間にも、腕は不気味な黒煙を上げながら這い寄ってくる。近くで見ると解るが、子どもの腕だった。左腕。クッキーの欠片を握っている。

「これって、表紙の――」
「とうっ」

 表紙に描いてあった男の子の腕じゃない?と聞こうとした瞬間、倉間がクッキーを握る手指を踏みつけた。というか、軽くジャンプして、思いっきり体重を掛けて腕の上に着地した。
 ぺき、と軽い音がしたのは、もしかして骨が折れた音だろうか。うわぁ痛そう。めっちゃもがいてる。ざりざりと地面を掻いて抵抗する指を認めて、倉間は革靴の先をずらして指先に乗せた。

「うっわ…」

 ぱきぱきぱき。リズミカルに響いた音。マジ容赦無いですねと口走りそうになったが、思い留まった。暫くして、腕は力尽きたように抵抗を止めた。
 …力技で対応するって、有りなんだ…?まぁ確かに、私が今まで会った諸々の人外さんたちは拳の通用しそうな相手だったけど、こんなあからさまに怪奇現象な相手に物理攻撃が有効だったとは。

「倒したよー」

 良い笑顔で私を振り返る倉間を見てやや反応に困ったものの、一応助けてもらったことになるんだろうと笑みを返してサムズアップしておく。

「お疲れー」

 怪異撃退って、物理攻撃が基本なんだろうか。それなら私にも出来そうだ。

「あ、あれ普通の人間が触ると解けちゃうからね」
「やっぱりエイリアンか」

 前言撤回。残念ながら私には無理そうだ。
 それじゃあ仕方が無いなと頷いた私の左手を倉間の右手が握って、ぐいぐいと引っ張る。先へ進もうぜということか。

「恋人繋ぎやめてくれませんか」
「デートなのに?」
「そう思ってるのは倉間だけだよ」

 私は拉致誘拐された被害者の気持ちでしか無い。しかもよくわからない空間に引き摺り込まれたということは、軟禁も含まれるのではなかろうか。

「怖いとこ見せた後に優しくすると、大抵の子は落ちるんだけどなぁ」

 残虐性を見せた直後に釣れた女が居たなら、それは多分、怯えて言いなりになっていただけだ。
 あと、脅した後に優しくするのも典型的な洗脳の手段だから。まず怯えるということの無い私には意味の無い手口だ。

「…つくづく極悪だね」

 今日一日で、倉間に対する認識に何度修正を掛けたか解からない。マイナス方向に。





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