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GOLD RUSH!
大食い絵本6

 ザザァー…と吹き抜ける風に煽られた髪を抑え、笑顔のまま倉間を見た。
 神の遣いというよりは悪魔じみた、性悪さの滲む表情で、倉間は答えた。

「ここ?あの本の中だよ」

 まぁそうなんだろうな、と頷きながら、脳裏に浮かぶのは始有さんの声だ。

『開くと食われる』

 つまり私たちは食われたと。倉間は自らあの本の中に飛び込んだも同然だとして、私は完全な被害者だ。
 この空間に居るのが他の誰でも無く倉間だということが、何よりも問題だ。
 例えば私が助けてと言えば頷いてくれるだろう。そして何かあれば助ける。ただし一度だけだ。二度目のピンチに見捨てられて、嘘吐きと謗ってやっても、「さっきは助けてあげたでしょ?」と恥ずかしげも無く笑う顔が容易く思い浮かべられる。
 嘘は吐かないとか、有言実行とか。その言葉から受ける誠実なイメージを、躊躇い無く踏み躙る。

「何で倉間と…」
「ちょっと俺に対して当たりきつくない?」
「うん、ごめんね」
「あっさり認めるし!」

 ここで否定する意味が無いし。必要最低限の嘘しか吐かない事にしてるって、倉間には教えた筈だ。

「だって自業自得だよね」
「そりゃまぁそうだけど。俺、女の子に嫌われるのは慣れて無いんだからね?」

 散々女を誑かしておいて、何故嫌われることに慣れていないのか。顔が良いから何でも許されるのか。そのレベルの美形は始有さんくらいだと思うんだけど。…もう少し育てば詩月ちゃんもか。

「縋られるのは?」
「それは慣れてる」

 世の女が馬鹿すぎるのか、それとも倉間の恋愛詐欺スキルが高すぎるのか。個人的には後者を推したい。

「…それで。どうすんのこの状況?」
「放っておけば、小鳥ちゃんは死にます」
「餓死かぁ…」

 死ぬ時はあんまり苦しみたくないんだが。マゾ(舞瓦)じゃあるまいし。

「でもそうすっと俺が谺に怒られるんだよねー」

 始有さんってどんなふうに怒るんだろう。昔ながらの正座で説教か、一人で反省させるのか、それとも体罰系か。マジギレさせたら怖いタイプに違いない。

「だからデートしよう」

 悪童のように笑う倉間に目を見開いた。こういう表情も自在に作れるところは、ある意味凄い。

「…それ本気だったの?」
「俺あんま冗談とか言わないよ」
「潔癖め」

 人間が嫌い、嘘が嫌い、冗談も好きじゃない。そこまでいくと過去に対人関係で何かあったのかと勘繰りたくなるレベルだ。

「潔癖?」
「でしょ」
「俺、握手した人の目の前で手をウェットティッシュで拭って捨てたりしないよ」
「それはただの酷い奴だ!」

 何だ、その潔癖症に対する偏ったイメージは。驚きすぎて慣れないツッコミを入れてしまった。この場にばっくんが居れば倉間の相手なんて丸投げするのに。

「大声出す小鳥ちゃんとか初めて見た」

 けらけら笑う倉間の足を、取り敢えず踏んでおいた。もうちょっと年相応な爺口調で喋ってくれれば腹立たないかもしれない。
 ――しまった、想像したら笑える。





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あきゅろす。
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