GOLD RUSH!
大食い絵本4
休憩が終わってレジに立つと、最初の客が倉間だった。
「やっほ、小鳥ちゃん」
葉湖さんとまるで同じ台詞で片手を上げた倉間は、相変わらず胡散臭い爽やかスマイルを輝かせている。ただし、倉間はイラッとするけど、葉湖さんは憎めない。
笑ったときに犬歯が見えるかどうかくらいしか違わないのに、この差は一体何なのか……単に高感度の差?
「会計よろしくー」
どす、とレジカウンターに置かれた辞書を見て、軽く目を瞬かせて倉間を見た。
「千八百円が一点、千五百円が一点…」
(こいつか!)
何故か売れ筋の辞書。買っていく客の一人は倉間だったらしい。
「郵送で、お願いしまーす」
「かしこまりました。此方の用紙に住所と氏名、電話番号の記入をお願いします」
営業スマイルで対応していると、にゅっと始有さんが顔を出した。
「俺が持って帰るぞ?」
「あ、谺いたの」
名前呼びとか倉間爆発すれば良いのに。
そうか、始有さんと倉間は一緒に住んでいるんだった。書類上では保護者扱いになっているとか。
負の念を送っていると、心底不思議そうに小首を傾げた倉間が(あざとい仕草だ)始有さんの胸倉を掴んだ。
何してんだ。
冷めた眼差しを送っていると、すんすんと始有さんの匂いを嗅ぎ始めた倉間。
「…いや、ほんとに何してんの?」
「うわ変態を見る目。やめてよー、傷付くって」
我慢する気も無く心の声を漏らすと、ぱっと倉間は始有さんから離れて笑った。だからその台詞を言うときは少しくらい傷付いた顔をしろと、何回同じ感想を抱かせるつもりか。
「だって小鳥ちゃんだけならともかく、谺からも穢れた匂いがすんの、気になるっしょ?」
「それはどうでもいいけど取り敢えず、さっきから首を傾げるの、気持ち悪いよ」
美形がやるから絵面は悪くないけど、精神的にクるものがある。吐き気的な意味で。ついでになんかイラッとするけど、それは倉間が居るだけで不愉快になるのは仕方が無い。
「えー、他の女の子には好評だったんだけど。ゆーくんカワイー!ってさ」
「ふうん。そうなんだー」
「興味無さそう!傷付くー」
からからと笑って私の肩を叩く倉間。少しくらいは本当に傷付けば良いのに。
「で、本当に郵送しますか?」
「別にいいや。嫌がらせしたい気分も萎えちゃったし」
つまり私の仕事を増やしたかっただけだと。本当に正直だな。それがポリシーだってことは知ってるけど性質悪いわ。
「そんでこの穢れは何なの?」
始有さんの手を持ち上げて指先をつつきながら、倉間は微妙に嫌そうな顔をしている。
穢れが移るのが嫌なら触らなきゃいいと思うのは私だけだろうか。
「本だよ。お前こういうの好きだろう。暇潰しさせるのに丁度良いと思って貰ったおいた」
暇だと何をしでかすかわからないからな、と。始有さんの涙ぐましい地道な努力に、私は半笑いを浮かべた。
「有り難う、谺」
倉間は物凄く良い笑顔を浮かべている。
「でも、面白そうだと思ったら忙しくても暇を作って実行するけどね」
(うわぁ…)
知ってたけどこいつ、最悪。
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