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GOLD RUSH!
大食い絵本3

 ちょうど同時に休憩に入ったので、始有さんと一緒にお茶を飲んで一息ついていると、まぁ疑問に思って当然のことを聞かれた。

「椋告さんのおばあさんって何者だ?」

 私も知りません。鳥生一族を顎で使っている当主様ってことくらいしか。

「普通の人…だと思います。たぶん」

 普通の人と言い切れないのが苦しいところだが、少なくとも一族の中では群を抜いて親しみやすい人だ。お茶目で明るいし。
 厳格そうな顰め面に騙されると、その後ずっこけそうになる。ロシアンルーレット饅頭とか客人に出して爆笑するような人だから。
 まぁ軽く変人だけど一族の中では付き合いやすい。
 鳥生一族は変わっていて、普通は長男が家を継ぐところ、当主になるのは長女と定められている。それと、何故か知らないが無表情な人が多い。というか、無気力気味?
 それ以外の人は、ちょっと常人から掛け離れた信念のもとに生きていて、唯一まともっぽいのが母と鷺江さんだ。変人だけど話が通じるという意味で。

「普通の人間が手に出来る本では無いんだが」
「蔵にでも有ったんですかね…」

 鳥生一族は妙な方向に才能を発揮する人が多いようで、本家の蔵にはよくわからない骨董品が大量に収められているので、その類かもしれない。
 因みに現在の当主は祖母の鷺江さんなので、私は一応直系の孫ということになる。母は父と駆け落ちして鳥生を出ているし、継ぐのは雀ちゃんだから関係ないけど。
 因みに雀ちゃんは鳥生一族らしく無表情な感じの人だ。そして無口だ。妹大好きなシスコンで、父は雀ちゃんに嫌われているので鳥生の本家に足を踏み入れたことがない。

「蔵ってことは、そこそこ大きい家なのか?」
「ああ、なんか地主らしいって聞きました」

 ぶっちゃけ興味が無いので、詳しくは知りません。あんまり突っ込んだ質問には答えられないから避けて欲しいなー。
 目を泳がせながら、口元に笑みを浮かべる。曖昧な答え方しかできず申し訳ない。

「梳櫛と仲が良い家で…地主…?」
「あ、付き合いが産まれたのは曾祖母の代かららしいんで、始有さんは知らないかもしれません」
「ここ三百年帰ってないからな…」

 思い当たらなくても仕方ないか、と諦めたように息を吐く始有さんに苦笑する。
 三百年っすか…。ということは千七百年前後に東の方に出て来たと。元号は元禄から正徳あたりかな。世界史でいくとスペイン継承戦争くらい?

「そういえば、詩月ちゃんとどっちが年上なんです?」
「あの蛇神の方が上だ」

 始有さんより年上の癖に小学生をやっているのか。いくら明音ちゃんの側に居たいからって詩月ちゃん…。
 こういう場合も恋は盲目と言うのだろうか。それとも、友情は全てを超える、とか?
 改めて考えてみると、ちょっと感心する。

「まさかこの街にあんなものが来るとは思わず、優を引き摺って挨拶に行った覚えが有るな」

 ああ、天狗より神様の方が偉いんですね。
 …小学生の女の子にひざまづく男二人を想像して、口の端を引き攣らせた。
 全員美形だけに、洒落にならない絵だった。

「凄いんですね、詩月ちゃん」
「そうだな。凄いといえば、別の意味で凄い気配も居るが」
「へぇ…どんな?」
「一言で言えば、穢れだな。外からの客らしいが特定出来ない」
「ああ、あの吸血鬼ですか」

 田中(父)に会った後で倉間に遭遇すると穢れがどうとか言われるから、穢れというのは田中(父)で間違いないのだろう。
 納得して頷くと、始有さんが黙り込んで、信じられないものでも見るように私を凝視していた。

「どうかしましたか?」

 凍りついた表情を不思議に思って首を傾げると、始有さんはそっと私から視線を逸らした。

 ――遠慮せずに言っても良いのに。
 あの吸血鬼を消滅させたいと言われても、私はショックを受けたりしないから。





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