GOLD RUSH!
大食い絵本2
「椋告さん、その袋…」
翌日。バイト先に顔を出した矢先、始有さんが訝しげに白い紙袋を見詰めてきた。
「京都の祖母から母に送られてきたんです。母は要らないみたいで、売ってこいって言うので」
「椋告さんのお母さんの実家、梳櫛だったのか」
あれ、始有さん。葉湖さんの実家を御存知?
でもそうか、倉間もこの人も京都・奈良辺りの出身だから、純粋な人間ではないという共通点も有るし、知っていてもおかしくは無い。
「違いますよ」
「その袋から梳櫛の気配がするんだが」
私には解らないけど、人外の方々は本当に気配に敏感だな。空霧くんもばっくんも詩月ちゃんも、他の人外の気配や匂いには直ぐに気付くし。
そういえば倉間も穢れがどうとか言っていたか。あれが神聖な生き物というのは納得したくないけど、始有さんと同種だと考えると、穢れだの悪いものだのに敏感なのもイメージ的に頷ける。
「持って来てくれた人は梳櫛ですから」
「もしかして、若い女?」
始有さんはゆったりと腕を組んで首を傾げた。…軽く動揺してしまった。破壊力が高すぎる。美男子が首を傾げる動作をするのは反則だ。
「はい。お知り合いですか?」
「葉湖という名前の女なら、知り合いだ」
「おお、正解ですよ」
眉間に皺が寄った。顰め面がセクシーだ。
「中身は曰くつきじゃないだろうな?」
軽く見惚れていた私の視線に気付かなかったのか気付いて無視したのか、普通に聞いて来た始有さん。
ああ、狐は性質が悪い、と。その悪質さについては、夏に詩月ちゃんに聞いたような気がする。
何だっけ、狐は嘘吐きとか騙すことばかり考えているとか、そんな感じの台詞だったと思うんだけど。流石に半年弱も前のことを正確に思い出すのは厳しい。
「さあ…」
曰くつきかどうかなんて私に判断がつくわけもなく、返答は曖昧になる。
「見ても?」
「良いですよ」
判断できる人が居るなら、任せるに否がある筈もなかった。
「…これは、少し不味いな」
紙袋の中身は、大判の絵本だった。綺麗な男の子がジンジャーマンクッキーを食べている絵が描かれた表装で、厚さは丁度一センチくらい。
開きもせずに表紙に手を当て、始有さんは色っぽく息を吐いた。
「売れませんか」
「売るには危険すぎるな。俺が買い取っても構わないか?」
「寧ろ万々歳って感じですけど、何が危険なんですか?」
一応そこは聞いておきたいので尋ねてみる。
苦笑交じりの返答は、その表情に似つかわしくない物騒なものだった。
「開くと食われる」
――なんでそんなもん送って来たんですか、鷺江おばあちゃん。
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