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GOLD RUSH!
歩くフランス人形6

「君は、私の姿を見てどう思う?」

 紅茶を御馳走になりながら、その質問に答えた。

「かっこいいですね」

 日本人から見た外国人っていうのは、基本的にそこそこかっこよく見えるものだと思うけど、この人は一線を画しているように思える。頭の中で始有さんや志摩くんと並べてみても、やっぱり美形だ。

「そうだ。だから餌には困らないのだが」
「自分から寄って来るって?」
「その通りだ。『どうにでもして』という言葉通り、有り難くいただいている」

 ――うん。
 日本には、据え膳食わぬは男の恥っていう言葉も有るし、別に良いんじゃないの?空霧くんのときにも言ったけど、ただの食物連鎖だし。

「けれど君に、この美貌は通用しないらしい」

 美貌とか自分で言っても許されるレベルの美形って凄いよね、とか感心してみる。実際に美形だから自意識過剰とか言えないのが何とも…。
 肩を竦めて苦笑した。

「まぁ、彼氏居るんで」
「素晴らしいな。愛の力かい?」
「どうだろ…?」

 愛の力っていうか。そもそも外見よりも中身が大事なんだよね、殺意的な意味で。その点でいくと田中(父)は合格点なんだけど、志摩くん以外に殺されたら浮気だしなぁ…。

「十月以前なら、おとなしく食われてたと思うんですけどねぇ」
「ほう」

 おっと、そろそろ日が沈む。もう十二月だから、日没が早い。

「今はほら、彼氏と約束が有るので、浮気できないじゃないですか」
「それは惚気かい?」
「いや、ただ、約束は守るもんだよねっていう話です」

 必ず。
 私のことは必ず、志摩くんが殺すと。そういう約束をしているので。
 殺されたがりの私だからこそ、この黒衣の男に魅了されれば約束を破ることになると、そう直感したので。

「そろそろ帰ります」

 ティーカップを置いて席を立つと、腕を掴んで引き留められた。

「そう簡単に帰れると?」

(…うわぁ)

 抱きしめられた体勢で、軽く頭突きをする。身長差の問題で、喉仏にクリーンヒットした。田中(父)は激しく咽ている。呼吸器系は駄目なんですね。

「お邪魔しましたー」

 とっととトンズラしようと扉を開いて、復活した田中(父)に、今度は肩を掴まれた。仕方なく、携帯電話のディスプレイを突き付けると、扉の外に突き飛ばされた。
 待ち受け画像が十字架だったのだが、こんなものでもそれなりに効くらしい。いや、驚いただけか。



 いつものように教室の一角で弁当をつついていると、みな子が田中さんを連れて来た。これも今や“いつもどおり”。何だが曇った表情で現れた田中さんの為に、ガタガタと椅子を寄せて場所をつくる。田中さんは問題なく動いている。電池を換えたんだろう。

「莉子、その椅子貸してー」
「はいよー」

 ひょいと椅子を確保した莉子から受け取って、空いた場所にセッティング。

「はい、どーぞ」

 にこっと笑って言うと、田中さんは心底不思議そうに私を見た。この上目づかい。この滑らかな動作が単一電池二本で…ロボット工学的に有りなんだろうか。完全にオーバーテクノロジーな気がするんだけど。というか田中さんは何処までが科学で、どこからが超常現象なの?

「…椋告さん、」
「ん?」

 首を傾げて、こっちも不思議そうに見返してみる。田中さんはやっぱり不思議そうな顔で「何でもないです」と言った。

 その顔は、相変わらず人形のように可愛かった。





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