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GOLD RUSH!
歩くフランス人形5



「気にしなくて構わないよ。ただの電池切れだ」
「そうなんですか」

 優雅に微笑んだ田中(父)に頷く。田中(父)は田中(娘)を丁寧に抱き上げて、白いワイシャツの裾から手を突っ込んだ。近親相か…いや、うん、何でもない。ただ田中(娘)のワイシャツの中を這い回る田中(父)の手の動きが気になるというか、嫌でも目が行くのでどうにかして欲しいというか。
 めくるめく禁断ワールドから目を逸らすために、唯一光の射しこんでいる窓の外を見る。私はまだ十八歳未満なので、ちょっと直視できません。
 遠い目をしていると、田中(父)の笑い声が聞こえた。

「椋告くん。君は勘違いをしているようだ」

 ぎ、ぎ、ぎ。かち。
 奇妙な金属音が耳について、顔をしかめつつ、あらためていかがわしい親子を見る。
 と、田中(娘)のワイシャツの裾から何か円柱形の塊が、大理石の床の上に落ちて転がった。円柱系の塊は金色で、黒く文字の入った緑のラベルでコーティングされている。

「……電池式なんですか、田中さん…」

 単一乾電池が二本、床の上でころころ揺れている。
 まさかの乾電池。なんとなく夢が壊された気がして顔をしかめる。

「ああ。明日には問題なく動いているから気にしないでくれたまえ」

 田中(父)は、私が顔をしかめた理由を勘違いしているようだ。
 苦笑を浮かべて、黒衣の男を見た。

「…夏じゃ無くて良かったですね」
「水泳の授業なら受けられるよ」
「防水加工済かー…」

 まぁ、でなければ雨の日の登校に支障が出る。
 寧ろ納得している私に、目の前の男は溜息を吐いた。

「ところで椋告くん。この子が人形であるという事実を目の当たりにして、そうも冷静でいるというのはどういう了見なのだね。そこは嘘でも驚くのが様式美というものだよ」

 うわお。それは確かに。正直なところ、乾電池によるガッカリ感で驚きがぶっ飛んだだけなのだが。空霧くんが文芸部だという事実と同じくらい驚いていた筈なのに。

「……マジで!?」

 更に深い溜息を吐かれた。態々リテイクしてあげたのに、酷い態度だ。心外である。
 空々しく機嫌を損ねた顔をしてみると、彼はその秀麗な顔を歪めて此方を見た。

「君、初めに会ったときと大分性格が違わんかね」

 ああ。それはそうだ。そんなのは当たり前だ。



「これが昼間の通常テンションですから」

 相変わらずの我ながら薄っぺらい作り笑顔で、私は目の前の美貌を鑑賞していた。全く、絵になる親子である。此処にみな子が居たら鼻血を我慢できず危険人物として通報されるのではなかろうか。
 そんなことを考えながら、美しいものは、いつ見ても美しいのだと一人頷く。



 ――私が美しいものを好きかどうかは別として。





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あきゅろす。
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