GOLD RUSH!
歩くフランス人形3
また、あの焔の夢を見た。最近周期が短くなっている気がする。ゆらりと揺れる不安定さは、少しだけ志摩くんに似ているようにも思えて嫌いじゃないんだけど。
それに、あの夢を見た直後は何となく調子が良い。
けれど、調子の良し悪しに関わらず、避けられないものも在る。
今日も今日とて、私は拉致られた。
倉間はいい加減、私に飽きるべきだと思う。これだけやって落ちないんだから、諦めて他のところ(女)へ行け。世の女性のことを考えると非人道的な意見かもしれないけれど、なんかもうこいつ本気で面倒臭い。
「はい、あーん」
「うん、自重して」
彼氏いるって言ったよね?あ、だからこそ最近パワーアップしたのか。略奪愛はお得だとか言ってたもんね。…話さなきゃ良かったわ。
「口開けないと殺っちゃうかもよ」
「…」
「口開けないとヤっちゃうかもよ」
口を開けた。最後の一口をやたら嬉しそうに「あーん」してくる倉間が本気で腹立たしい。
と、携帯が鳴った。
ちらっとディスプレイを見て、一瞬硬直する。
(…うわぉ!)
凄まじいタイミングで掛かってきた電話に、頬が引きつった。
倉間が不思議そうに首を傾げている(美形だから様になるのがまた腹立たしい)。
「ごめん、ちょっと電話」
「え、」
席を立って、店の外に出る。切れていた電話に溜息を堪え、最新の着信履歴を選択して通話ボタンを押した。
「…はろー、志摩くん」
『こんにちは、小鳥さん。態々掛け直してくれて有り難う』
普段通りの声音に安堵して、軽く言葉を続ける。
「や、こっちこそ出れなくてゴメン。何か用が有ったの?」
『ああ、聞きたいことが有ったんだ』
「なに?」
電話口の向こうで微笑む気配に、きっと志摩くんは、いつも以上に優しい顔をしているんだろうなと、あの不可思議な微笑みを思い浮かべた。
『小鳥さんは今、幸せではないよね』
質問の形を借りた断定。
ああ、志摩くんは今、そうでないことを望んでいる。
既に確信しながら、それでも望んでいる。
「いつも通りだよ」
私が答えると、また微笑む気配がした。
ぞくりと背筋が震えて、彼が恋しくなった。
「小鳥ちゃん」
背後から声がして、振り返ると倉間が立っていた。
一応、通話が終わるまで待つくらいの礼儀は弁えていたらしい。弁えた上で無視しそうではあるが、今回はちょっかいを出すことを思い留まったようだ。
「何?」
「彼氏、どんな人?」
相手が恋人だということは、ばれていたらしい。
想定内の質問。くるだろうなと思っていた台詞が来て、苦笑する。
「多分、倉間の嫌いなタイプ」
――用件?
ただのラブコールだったよ。
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