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GOLD RUSH!
プールに人魚6

 呆然とする魚沼さんを連れて入ったのは、倉間に引きずり込まれたことのある喫茶店。
 ――あの野郎、定期的に私の目の前に現れては、「あ、小鳥ちゃん。デートしよ?」と笑顔で連れ回してくるのだ。爽やかに軽い。
 流石は恋愛詐欺師と言うべきか、奴の紹介する店には外れが無い。好みを熟知されているようで、それがまた癪に障るわけだけど。

「何食べる?」
「えーと、あの、…おすすめは…?」
「ベイクドチーズケーキかな」
「じゃ、じゃあそれで」
「飲み物はアイスティーで良い?」
「あ、うん」

 まだ混乱しているようだ。
 というか、何故私じゃなくて魚沼さんが混乱しているんだろう。衝撃暴露されたのはこっちなのに。
 取り敢えず注文を済ませると、店内に客が少ないからか直ぐに運ばれてきたケーキとアイスティー。

「んー。魚沼さんも食べなよ」

 私が頼んだのは甘夏のタルト。濃厚カスタードが甘夏の酸味と嫌味の無い甘さでスッキリいただけます。
 おどおどしながらケーキを口に入れた魚沼さんが瞬きして、次の瞬間、へにゃーっと表情が緩んだ。



 魚沼さんの警戒心が緩んだところで事情を伺ってみると、昨日の放課後、我慢できずに学校のプールに忍び込んで泳いでいたのは彼女であるとのことだ。
 昼休みにプールでの目撃情報に過剰反応していたのも、それが理由。『見られてた!』と『変質者扱いされた!』のうち、どっちがショックだったのか聞いてみたい。
 そして先ほどの私の話題に出てきたプールとか海とかの単語に、遠回しに問い詰められてると勘違い、パニックを起こし逆上、墓穴を掘るという流れだ。
 墓穴を掘るというか、掘った墓穴を埋めようとして別の墓穴を掘っていることに気付いていない辺り、なかなか愉快な子だと思う。

「それ、私に言って良い事なの?」
「だって小鳥ちゃん、良い人だから…」

(…おいおい、)

 私はもう微妙な笑みを浮かべることしかできない。
 何、この子。純粋とか、そういう問題じゃ無いだろ。確かにおっとりしていて育ちの良い感じの子だけど。
 箱入り、いや水槽入り娘?

「ケーキ美味しかったし…」
「…そっか。美味しかったなら良かった!また来ようね」

 餌付けしてしまった、らしい。





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