GOLD RUSH!
天狗面8
空霧くんとばっくんが店を出た後、私は始有さんに問い掛けた。
「本当にそんなに酷いんですか?」
「…高梨が言っていたのは事実だ」
空霧くんが言ったのは、倉間優が天狗で人間嫌いで女好きで、わざわざ自分に惚れさせてから女を振るという話の具体例だ。
始有さんはこめかみを押さえて沈痛な面持ちをする。なんとなく色気のある仕草だった。
「昔は可愛かったんだがな…」
始有さんが呟く。
そこでまた客が来て、話題は打ち切られた。
目の前の倉間は一瞬だけ動揺を見せた。直ぐに、『何の話?』とでも言いたげに表情を作りかえる。
私の発言は予想外だったらしいけど、私も予想外だ。こんなに妖怪の類との出会いが多いなんて。幽霊とか妖怪って一回遭うとその後も遭う確率上がるって言うから、仕方がないのかもしれない。もう妖怪づいてるんだろう。憑いてる、と言い換えても良い。
「1300年前って…」
「始有さんが言ってたよ。子供の頃は可愛かったって」
にっこり笑いながら言う。やばいなぁ、スイッチ入っちゃってる。
夜は少しだけ性格が悪い私。印象が良くない相手だから、余計にスイッチが入りやすくなっていたらしい。
聞けば始有さんは昔から倉間を知っていたようで、人間に好意的な彼は倉間の所行に心を痛めていたとか。始有さんを苦しめる倉間には私も好意的になれない。だって倉間より始有さんの方がタイプだから。付き合い長いし良い人(いや、人?違うよね、けど他に良い言い方思い浮かばないしなぁ)だし。
「谺の知り合いなんだ?」
「うん、バイト先の先輩」
倉間の空気が微妙に変わった。相手を馬鹿にするような笑みを浮かべている。目は笑っていない。明らかに冷えきっている。
馬鹿にするような笑みは実際、馬鹿にしてるんだろう。私という個体ではなく、人間全てを。
喋り方は変わらないのに、冷めた声。
これが本性か。なかなか厄介そうな天狗様だ。
然し、羨ましいなぁ、名前呼び。谺って。流石に呼び捨てにしたいとは思わないけど。
「谺が教えたの?」
「天狗だってことはね。人間じゃないってのは他の子の行動で気付いた」
始有さんが言い出す前に。だって空霧くん、事情を知らないただの人間の前で獣型時の話を始めたりしないだろうし。
「そいつもニンゲンじゃないの?」
今、片仮名だった。人間を馬鹿にした発音だった。まぁ良いけど。
「うん、人外。倉間優には絶対に近付くな、的なことを言われた」
「今、近付いてるのは良いのかなぁ」
「“私は”、近付いてないから」
あくまでも近付いてきたのは其方であると主張すれば、彼は瞬きをして納得したようだ。
「確かにね。でもそれで誤魔化せるの?」
「平気」
「どうして言い切れるのさ」
「私、女の子だし」
意味がわからない、と倉間が眉根を寄せる。私が説明しようと口を開いた刹那、
「あああああ!!?」
殆ど悲鳴じみた、間抜けな絶叫が聞こえた。
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