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GOLD RUSH!
天狗面5

 にっこり笑顔で私は頷いた。空霧くんの事を知っているかと聞かれたら勿論知っている。ばっくんの事も。
 単なる知り合いでなく、その人ならざる本性まで知っているのかと聞かれたら、それも答えはイエスだ。
 初めから、私は空霧くんを人として見なかった。
 文脈的に、始有さんの質問は後者である。
 さて、此処で思い出すのは私が人間の言うところの化物である空霧くんやばっくんを受け入れた時の彼らの様子。
 人間だということを悉く疑ってくれやがった。
 ――即ち、彼らの周囲に前例は存在しない。
 私以外の人間が彼らを受け入れた事は無い。もし有ったなら、彼処まで驚かないだろう。
 ならば導き出される答えは一つ。



「始有さんは、何なんですか?」

 彼も人外だ。



 人間じゃない、と。
 その一点において、私が彼らに気負う所は何一つ無い。
 彼らは害ではない。人間よりも寧ろ誠実で正直で、弱者をいたぶるようなことはしない。空腹なら捕食する――確実に殺すし、そうでないなら至極おとなしい。
 従って、無害である。少なくとも私にとっては。
 始有さんは一体『何』なのか。私を殺す生物なのか。じっと期待を込めて見上げると、微妙に眉を顰められた。

「…天狗だ」
「強そうですね」

 あっさり答えてくれた。
 私が質問に答えたからには自分も答えるべきだと思ったらしい。律儀な。
 そのやり取りを見て、空霧くんが笑う。

「強いよ。それにしてもツゲさんの知り合いがしーさんの方で良かったよ」
「うん?どういうこと?」

 しーさん、は始有さんの事だろう。私が首を傾げると、ばっくんが始有さんを睨み付けた。

「こいつは良いけど、相方が最低なんだよ。女好きで人間嫌い」
「矛盾してますけどー」
「女、喰うのもだけど手酷く捨てるのも目的らしくてさ。マジ最低なタラシ野郎だから」

 …よっぽどそいつが嫌いなんだね、ばっくん。随分と悪意に溢れた物言いだ。あぁ、もしかして。

「好きな子でも喰われた?」
「違う!逆恨みとかじゃ無いから!本当に悪い奴だから!」

 何だ違うの、つまらない。
 否定する必死さがちょっと笑える。
 そんなに必死になられると、逆に怪しい気がしてくる。

「アイツ学校でも女漁ってんだよ。一人で風紀乱し過ぎ。会う度に馬鹿にしてくるしさぁああっぐぁ」
「獏。そろそろ五月蝿い」

 げし。空霧くんの蹴りがばっくんの膝裏に入った。痛い。今のは痛い。ていうか舌噛んだよね。
 確かに途中からただの愚痴になってて若干うざかったけど。
 思わず私まで口元を押さえる。見てる方も痛いよ。
 妙な声を出してしゃがみ込んだばっくんに呆れた眼差しを向ける空霧くん。

「お前の恨みつらみはツゲさんに関係ないから」

 その眼差しも私に向かった瞬間に、心配そうな色に変わっている。…シスコンの弟ってこんな感じなんだろうか。

「でも本当、気を付けなよツゲさん。初対面の人とうっかりアドレス交換とかしないで」
「あはは、うん、気を付けるよ」

 実際、初対面でアドレス交換した空霧くんに言われたら、「そんなことしないしー」とは言えない。

「ところで、そのひとの名前は?」

 もし会ったら、逃げよう。
 喰われた上に捨てられるのは、流石にごめんだ。

「…くらま、ゆう」

 倉間優。有害な天狗。女の敵。

 苦々しげな顔から判断する限り、空霧くんはばっくん以上にそいつを嫌っているようだ。





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