GOLD RUSH!
天狗面4
時間に余裕を持って、バイト先の本屋に入る。
「一昨日ぶり、椋告さん」
既に始有さんがいて、自然な動作で制服のエプロンを取って手渡してくれた。
…ナチュラルに紳士。素敵だなぁ。
「こんにちは始有さん」
笑顔で挨拶を返して、軽く礼を言ってからエプロンを身に付けた。
と、来客だ。
入ってきたのは高校生と中学生か、兄弟くらいの男子二人組で。――どちらにも見覚えが有った。
「「いらっしゃいませ」」
あ、始有さんと声が揃った。
ちらりと此方を見た客の片方と目が合う。
「鳥ちゃん!?」
「ばっくん、おひさー。空霧くんは昨日も会ったね」
改めて、顔の横でひらひらと手を振りながらのご挨拶。対オキャクサマではなく、オトモダチヴァージョンで。
「おひさーって、バイトしてたの?」
「してたんだなー、これが」
「何、知らなかったの?獏」
ダッセー、と言って空霧くんは笑った。無駄に良い笑顔だった。
ばっくんは、地味にヘコんでいた。なんだかあんまり優しくしてあげたいと思えないのは、やっぱり彼がヘタレだからなのだろうか。
「でもバイト此処だったんだね。俺も知らなかった。結構来るんだけどな」
「へぇ…シフトが合わなかったんだね。何買いに来たの?」
「漫画。今日発売のやつ」
うん、漫画は日本のサブカルチャーだよね。然し空霧くん、びっくりするほど人間社会に溶け込んでるな。いつだったか、家では楽だから獣の方の姿をとっているって聞いた気がしたんだけど。
「…え、あの姿で漫画読んでるの?」
「うん」
「ページ捲れるの?」
「俺、意外と器用なんだよね」
それが本当なら確かに器用だ。それなりに切りにくい筈の人間の肉をあっさり切り裂けるあの爪で、ページを裂かずに本が読めるんだから。
床にへちゃっと座って、前足の片方で本を押さえつつ、もう片方の前足の鋭い爪でページを捲る金色の獣。凶悪な視線の先に有るのは漫画……、なんか可愛いな。
「…あー、椋告さん?」
「何ですか?」
始有さんが、やや不可思議そうな視線を私たちに向けていた。
「高梨と砥石のこと、知ってるのか?」
――その仰り様は、始有さんも御存知だということですね?
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