GOLD RUSH!
天狗面2
「ねぇ、ナンパだけど」
「…、ナンパなんだ?」
「そうそう。だから、俺にナンパされてくれませんかー」
「あはは、これからバイトなんだよね、悪いけど」
雑踏の中、声を掛けてきたのは淡い茶髪に茶色い瞳の男子だった。垂れ目だ。妙に色気が有るのは左目の下の泣き黒子効果か。
見覚え有る制服を着ていると思ったらばっくんと同じ制服だった。
…一瞬わからなかった。ネクタイしてないし。
正直、第一声で『ナンパだけど』と言い切る潔さにちょっとナンパされてやろうかとぐらついた。
『ねぇねぇ、遊ばない?』『タイプなんだけど』『今ヒマ?』とか微妙にぼかされた上にしつこいナンパよりよっぽどときめいた。もしかして上級者か。
けどお店に迷惑かかるし。遅刻欠勤したことないのになんか勿体無いし。
断ると、「じゃあしょうがないねー」と笑顔で諦めてくれた。去り際まで潔い。
遊び慣れてる感がある。でも爽やか。
私のバイトのシフトは基本的に、土曜日、火曜日、木曜日に入っている。
今日は木曜だ。
書棚を整理していると、バイトの先輩に声を掛けられた。
「椋告さん、楽しそうだけど、何か良いことでも?」
貴方と一緒に仕事出来ることが嬉しいんですよ。とは、流石に言えない。
書店のバイト先の先輩、始有谺さん。しゆうこだま、と読む。黒曜石のように真っ黒な切れ長の瞳に、染めたのとは違う質感の茶色い長髪を高い位置で一つに括っている。
(今日もかっこいいな)
長髪の男は好みじゃないけど、この人の髪は許せる。何故なら文句なしに似合っているから。つまりそれくらい美形ってことだ。
見た目良いし、無口そうに見えて実はただの奥手で、慣れれば意外と喋ってくれるし、美形すぎて一見怖そうだけど親切だし。最高。美しい。男らしい。何時間でも眺めていられる。
美しいものを鑑賞するのは大好きだ。だって女の子だし?志摩くんも綺麗だけど、始有さんとは全然タイプが違う。黒髪の志摩くんと淡い茶色の長髪の始有さん。身長とか骨格とか。志摩くんは美人だけど、始有さんは美形というか。男性らしい色気が有るというか。
…どっちも好きだけど。
そう言えばあのナンパ男も美形だった。ちょっと崩れた色気が有って。高校生らしからぬ色気だった。絶対アレ学校でも人気有る。
あのナンパは良いことと言うより、面白い出来事って感じだ。
「はい、ちょっとだけ」
にこっと笑いながら、手は止めない。
機嫌が良いのが伝染したのか、始有さんの表情も柔らかくなった。接客スマイル以外はなかなかレアなのに。
今日は良い日だ。決定。
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