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ベリィライク
はたらく。



「小唄ちゃん、前年度の資料どこ?」
「副会長の肘置きになってます」
「…うわ、ありがと」
「じゃ、紙足りないので貰ってきます」
「よろしくねー」

副会長に手を振られながら生徒会室を出ようとすると、松前に呼び止められた。

「唐菜先輩、ポスカも頼んで良いですか?」
「良いよ。こっち教師分だけ印刷?」
「はい、お願いします」
「了解。行ってきます」

今度こそ生徒会室を出る。慌てた様子で後輩くんがついて来た。

「ちょっ、俺も行きますよ!」

――あぁ、忙しい!



事務室で受け取ったA4とB3の紙を半分ずつ、後輩くんの腕に落とす。どさっと鈍い音がした。重そうな音だし、実際、地味に重い。

「ちょっ!」
「手伝いに来たんでしょ」
「重いんですけど!?」
「次は印刷室ね」

文句は聞き流す。半分は私が持っているんだし、手伝いに来たなら手伝ってもらおうではないか。当たり前の事だ。後輩くんの顔が歪んで、言い表し難い表情になっている。やり場の無い怒りと悔しさと呆れと諦めとその他色々が混じり合って、なかなか面白い。笑えるな。

「後輩くん、使い方覚えた?」
「勿論です」

印刷室で、印刷機を見て訊ねる。後輩くんは頷きながらも印刷部数を設定して印刷を開始する。行動が早い。物覚えは良いし、それなりにやる気も有るらしく動いてくれるので助かっている。基に言ったことは嘘じゃない。印刷を終えると隣の職員室に入ってそのまま印刷物を配布して、ついでにポスカもゲットした。早足で生徒会室に戻る。

「ところで先輩、『後輩くん』て何ですか」
「私が先輩ならそっちは後輩でしょ」
「俺の名前知ってます?」

何を馬鹿な事を言い出すのだろう。思いっきり睨みつけられた初対面は私の中にかなりのインパクトを残していて、忘れられそうにない。

「吉川栄太だよね」
「…正人は松前って呼んでますよね」
「そりゃあ、松前は私の後輩だから」

対して、後輩くんは、あくまでも基の後輩なのだ。しかも私を嫌っている。まさか嫌っている人間に名前を呼ばれたいと思っているわけでは無いだろう。

「名前で呼んで欲しいの?」
「そんなわけ無いだろ!」
「だろうね」

やっぱりね。しかし幾ら何でも過剰反応ではないだろうか。敬語がすっ飛ぶ程に嫌だとは。…冗談だ。流石に後輩くんの真意に気付いたけれど、私は笑って会話を終了させた。

後輩くんを名前で呼ばない理由は、もし気に入ったら嫌われたとき傷つくからだったりする。





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