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ベリィライク
おいかける。



僕は今、とても混乱している。何故ってそれは衝撃的な光景を目撃してしまったばかりだからだ。小唄が!小唄が栄太に微笑むなんて!
ぐるぐると考える。小唄は自分を嫌っている人間を無条件に好きになれるような聖人じみた人格の持ち主ではない。栄太は小唄を嫌っていた。小唄は栄太を嫌ってはいなかったけど、うざい犬くらいには悪印象だった筈だ。…つまり、栄太はイメージを挽回したわけか。しかしそこも謎だ。何故、自分が嫌っている人間に好かれようとするのか。いや、好かれようとしなくても小唄が勝手に気に入ったのかもしれないけど。栄太は態々小唄に話しかけたように見えたし、…じゃあ栄太が小唄を気に入ったのかな。

「でもそれにしてはしかめっ面だし。ああああ、どういう状況…?」
「高月くんこそどういう状況?」
「え?…あ、賀川さん」

後ろから掛けられた声に若干の動揺を覚えつつ振り向くと、小唄の友人の賀川祐美が立っていた。訝しげに眉を寄せている。…そんなに怪しかっただろうか。

「はい、賀川です。何してんの?」
「うん。あれ、どうしたのかと思って」
「わお、三角関係!」
「それはない」

小唄と栄太を眺めながら明らかに面白がっている賀川さん。恋愛うんぬんの面倒くさい事情を避けるために付き合いだしたんだから、小唄が浮気することはあり得ない。即刻否定すると賀川さんはつまらなさそうな顔をした。そんなに三角関係が見たかったのだろうか。

「少しくらい慌てないの?」
「小唄が浮気って、想像つかないんだよ。賀川さんも冗談で言ったくせに」
「まぁね。あれ、生徒会の手伝いの子らしいよ。昼休み始まって直ぐ来たの。ウタが仕事教えてるんだってさ」

栄太が生徒会の手伝い。…ひょっとして、認めて欲しいと言ったからだろうか。小唄の事を見極めるつもりで…?
確かに、人となりを見極めるには近くに居た方が良いんだろうし、仕事ぶりから責任感とか気配りとかの性格も見られるし、効果的な手段だ。
僕の発言がきっかけなら、しっかり働けと栄太に言っておくくらいしか出来ない。栄太が生徒会に迷惑かけないと良いんだけど…。



「栄太、迷惑かけてない?」
「むしろ助かってる。覚え早いし」

翌日の朝、不安になって聞いてみると、小唄はあっさり否定してくれた。それどころか栄太を褒めた。

「なら良かった。小唄が教えてるんだって?」
「まぁ、副会長の御指名だから」

僕も大概だけど、小唄も面倒見が良い。だから任されたんじゃないかと思う。

「…栄太に何か言われてない?」
「特には。嫌いだって連発されてるけどね」

そのくらいしか無いかな、と小唄は笑う。特に何とも思ってない栄太に嫌われたところで、小唄にとっては痛くも痒くもないんだろう。一方的に敵意を燃やしている栄太はある意味気の毒だ。いや、本人には気の毒だなんて言えないけど。
その日の部活で、栄太にも聞いてみた。

「栄太、生徒会の手伝いしてるんだって?」
「…はい」
「どう?」

少しは小唄を認めたのだろうかと確認してみたら、物凄く悔しそうな顔をされた。小唄について行くだけで精いっぱいらしい。絶対に追いついてやる、と闘志を燃やしていた。

…目的、変わってない?





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あきゅろす。
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