ベリィライク
たのまれる。
「先輩、うちのクラスの奴で生徒会手伝いたいってのが居るんですけど」
連れてきて良いですか。と、生徒会庶務の一年生、松前正人が言ったのは昨日の話である。猫の手も借りたい生徒会が断る訳もなく、その場に居た副会長が「やっほー助かる!いつから来れるって?」と異常なテンションで快諾。明日からOKだそうですよ、と松前が微笑んだ。人手が増えるのは私としても大歓迎なところだけど、素直に喜ぶには今目の前に居る助っ人に見覚えが有りすぎる。
「生徒会の手伝いに来ました吉川栄太でっす。よろしくお願いしまーす!」
あぁはいはい助かります。
最近睨まれなかったのはこういうことか、と一瞬遠い眼をした。
「あれ、唐菜先輩は自己紹介しないんですか?」
「そりゃ必要ねーもん。ね、小唄先輩」
見上げてきた松前に返答しようとすれば、その前に基の後輩くんが口を開く。無駄に友好的な笑顔だ。…役者だね。
「栄太と知り合いなんですか?」
「彼氏の部活の後輩っつー微妙な関係だけどね」
漸く納得したらしい松前。まさに知り合いだ。知り合いとしか表現のしようがない。友好的ではないし、敵対関係でも無い。敵視はされてるけど、こちらからは何のベクトルも向いていない。しいて言うならば面倒な奴、というくらいか。本当に微妙な関係だ。
ちらりと見ると、後輩くんの表情が引きつっていた。見上げてくる目には敵意がこもっている。『彼氏の』という表現が気にくわなかったようだ。幼馴染の後輩と言った方が良かったかなと思いつつ、私がそこまで気を使う必要はないので無視することに決定。
「あらじゃあ調度良いじゃない。小唄ちゃん、吉川くんに仕事教えてあげてよ」
副会長が名案ね!とばかりに瞳をきらきらさせ、両手を組み合わせ上目づかいに見詰めてくる。『お、ね、が、い☆』の姿勢だ。この人がやると似合うのがまた何とも言えない。副会長の頼みを断れる男が果たしているのだろうか。私は女だけど。
「了解でーす」
「え!?」
副会長のお願いに軽く頷くと、驚愕の眼差しを向けられた。後輩くんは私があっさり了承したのが余程意外だったらしい。まぁ普通、自分に非友好的な人間の面倒など見たくないだろうけど、私としては害が無ければ問題ない。後輩くんは毛を逆立てて威嚇してくるけど害は無い。よって問題ナッシング。机の上のプリントを取って生徒会室を出る。後ろを振り向くと、後輩くんはまだポカンとしていた。「行くよ」と声を掛けると、覇気の無い返事と共についてくる。
「どこ行くんですか?」
「印刷室」
「…それ何のプリントですか?」
「文化祭でやるミスコンの事前アンケート」
「もう?早くないですか?文化祭九月ですよね」
「夏休み明けたら一カ月しかないし、もう準備始めないと間に合わないの」
「へぇ。…もしかして、全校生徒分、刷るとか」
「刷るよー」
意味のなくもない問答をしながら印刷室に向かい、プリントをセットする。印刷機の使い方を後輩くんに教える。刷りあがった最初の一枚を他の印刷機にセット。一台じゃあ時間が掛かってしょうがない。使って無い印刷機は全部使って、六百二十二枚刷りあげた。刷りあがったプリントはクラスの人数ずつに分ける。ぱらぱらと枚数を数えながら、後輩くんがぼそりと言う。
「基先輩に、認めて欲しいって言われました」
「へぇ」
「だから一応努力はしてみます」
「ふぅん、頑張れ?」
「…やっぱあんた嫌いです」
後輩くんの手に力がこもる。プリントが皺になる、とデコピンしてやった。
嫌いだろうが何だろうが、頼まれたからには面倒をみる所存だ。
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