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ベリィライク
だきつかれる。



「基、居る?」

部屋でくつろいでいるとそう声がして、「うん、どうぞ」と応答すると小唄が入ってきた。前とは違って静かな入室である。静かすぎて、なんとなく嫌な予感がしつつ顔を上げると珍しくも彼女は微笑んでいた。背後に暗雲を背負って。
部長のようにがっしりした人が見下ろしてくるのも迫力だけど、容姿の整った人が米神を引き攣らせながら笑顔でこっちを見詰めているのも怖い。

「ねぇ基。あんたの後輩、何なの」
「…何かしちゃった?」

なんとか浮かべた誤魔化し笑いはきっと、どこかが不自然だっただろう。怖いよ、小唄。

「昨日靴箱でぶつかって、謝られた」

謝ったなら良いじゃない、とは言わない。そこで終わりなら小唄の機嫌はここまで悪くならない。多分、小唄をイラァっとさせた続きがある筈だ。

「謝った相手が私だと気付いた瞬間舌打ちしやがった。因みに今日の移動教室中も同じ事が有った」
「うん…二日連続か…」
「二日?」

何を言っているこの愚か者、と言わんばかりの眼光で繰り返す小唄。そしてすぅっと息を吸い込み。

「廊下ですれ違うだけであからさまに嫌そうな顔するし偶然視線が合えばお前が悪いと言わんばかりに睨まれるのが延々一週間。幾らなんでも態度悪い、無視するにも限度が有るんだから懐かれたなら責任とって躾けて」

ワンブレスで言いきった。ワープロ部なのにどこからその肺活量がとどうでもいいことを疑問に思い、そういえば中学では吹奏楽部でサックスを吹いていたんだっけと納得した。あそこは文化部なのにヘタな運動部よりも断然厳しかったからなぁ。

「躾けって…、いや、教育が行き届かず申し訳ないです。栄太にはちゃんと言っておくよ」
「良し」

良い様に抗議しようとして止めた。確かにあの懐き方じゃあそう言われても仕方ない。小唄の中で栄太は犬で、僕はその飼い主なんだろう。



「ねぇ栄太」
と、翌日の部活後に声を掛ける。栄太は元気よく振り向いた。はいなんですか先輩!
…なるほど、犬だ、と思ってしまった自分に若干悲しくなった。

「栄太は小唄が嫌い?」
「…え。いや、…えっと」

しどろもどろになる栄太。嫌いなんだろうなぁ。主に僕が原因で。

「小唄は凄いひとだよ」
「…」
「僕は小唄が好きだから、認めてくれると嬉しい」
「…」
「栄太に、認めてほしいな」
「…俺に、ですか」

なんとか言葉を尽くしてみたけれど、駄目だろうか。何故自分が認めなければならないのかと目が語っている栄太に、苦笑をひとつ。

「大事な後輩だからね」

不機嫌そうな顔で、可愛い後輩は抱きついて来た。部長がにやにや笑いながらこっちを見ていた。どうやら全部聞いていたらしい。





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あきゅろす。
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