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ベリィライク
にらまれる。



「おはよう小唄」
「はよー、基」
「…なんか機嫌良いね。どうしたの?」

ドアを開けた瞬間耳に飛び込んでくる蝉の大合唱も気にならないほどに、私は浮かれていた。何故なら。

「今日生徒会ないんだー」

最近忙しそうだったもんねぇ、と納得して微笑む基に軽い笑みを返す。

「じゃあ一緒に帰れるね」
「ん。部活終わったら弓道場の近くで待ってるから」

二つ返事で誘いに乗る。私と基は共に登校しているものの、下校は別々だった。私が忙しすぎて時間が合わなかったというのがその理由である。生徒会長が部活の方を優先していたため、その分他の役員に負担が掛かっていたのだ。会長は今年で最後なので気持ちはわかるということで、生徒会内では文句を言わず働くという方針が決まった。身体を壊すほど忙しくもないので、私も真面目に頑張ったというわけだ。
下校の約束をして靴箱で基と別れ、教室に向かった。



私はワープロ部に所属している。放課後、部活が終わって冷房が効いたパソコン室を出ると、むわっと熱気に包まれるような感覚がした。室内にいるときは良いんだけど、外に出た瞬間一気にだるくなるのがパソコン室の悪いところだ。
基との約束に従って、弓道場の出入り口付近の柵に寄りかかる。勿論日陰を選んで。音がしないので、部活自体はもう終わっているんだろう。今は着替え中だろうか。
暫く待っていると、ぞくぞくと制服の男子が出てくる。同じ二年の生徒と部長さん他一部の先輩方は顔見知りなので、「小唄ちゃんじゃん」とか「高月待ってんの?」とか声を掛けてくる。ひらひらと手を振って去っていく彼らを見送っていると、漸く基が出てきた。背の低い一年生と並んでいる。

「小唄!」

私に気付いた基が、ぱたぱたと駆け寄ってきた。暑苦しくもない爽やかな笑顔だ。本当に基は夏が似合う。ついて来た一年生が、私と基を見比べる。

「もしかしてその人が基先輩の彼女さんですか」
「うんそうだよ」
「部長が言ってた通りの人ですね」
「でしょう」
「え、浅野先輩が?なんて言ってたの?」

美人って褒めてたんだよ、と笑う基だが信用できない。剣道部部長、浅野忠義先輩は親切だが捻くれた人なのだ。仮に褒めてくれたとしても素直に喜んではいけない。そこには二重三重の罠が仕掛けられていると考えるべきだ。
警戒して思索に耽っていると、なんだか物凄い視線を感じた。一年生くんだった。視線を返すと、驚いたような顔をされた。むしろむっとしたような、不機嫌そうな顔だ。私の視線に気付いた基が一年生くんを見た瞬間には笑顔になっている。

「小唄、こいつ僕の後輩で、吉川栄太ね」
「はじめましてー!よろしくお願いしますね!」
「…はじめまして。こちらこそよろしく」

…凄く、睨まれてるんだけど。こんなに敵意に満ちたはじめましてを貰ったのはそれこそ初めてだ。
いくら基が面倒見良いからって、(やっぱりそれも基の母親の教育の成果だ。『もとくん、困っている人には親切に』『年下の子はちゃんと面倒見てあげるのよ』)懐きすぎでは。基も自覚しているのか、苦笑気味である。目線だけで謝られた。にやっと笑って許す。初対面の後輩に睨まれるとは予想外だけど、そうそう会うこともないだろうし特には気にならない。だからその時はあっさりスルーしたのだけれど…。

それは、少し楽観的すぎる予想だったらしい。






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