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ベリィライク
きらい。

一番目に自分、二番目に家族と基、三番目が基の家族、四番目に生徒会、五番目に祐美と理瀬、六番目に他の友人、その他は先着順。
我ながら、優先順位がはっきりしている。情けは人の為ならず、めぐりめぐって自分に返ってくるものである。というわけで、どちらかといえば善人らしい生活を送っているが。

「ぎゃっ」

生徒会議事録を箇条書きにして書き写していた書記の一年生が声を上げた。紙で指を切ったらしい。しかもその拍子にノートを手放し、近くに置いてあった書類を床に撒き散らした。慌てて拾おうとする一年生に草薙がストップを掛けるのを横目に立ち上がり、棚から絆創膏を出した。

「あ、血が付くから触らないように。…触るなって言ってんだろ」

あー触っちゃった。とりあえず一年生書記に絆創膏を差し出した。

「はい。気を付けて」
「いやぁすんません」

へらっと笑いながら謝った一年生書記に、会計になった松前と、何を考えているのか庶務になっていた吉川くん(弓道部は良いのか)が生温い目を向ける。彼に対する同情の目だ。草薙を包む空気がひんやりとしていることに気付いたのだろう。

「お前これで何度目? ちょっと生徒会入ってから今の奴まで失敗した数を数えてみようか」
「す、すみません」
「いいから数えろよ。解らないなら俺も一緒に数えてやるからさぁ」

頬杖を吐いて皮肉っぽい笑みを張り付けた草薙に、書記くんはびくりと震えた。

「あの草薙先輩実は物凄く怒っていらっしゃる!?」

気付くのが遅い。
草薙は基本的に、仏の顔は三度までを実践している男だ。三度どころではない失敗回数の彼に対して、容赦する気は無いだろう。次は気を付けろよーと笑って貰えなくなったら後は鬼。前生徒会長への態度が全てを物語っている。

「確か…一つ目、棚の鍵を落とす。よりによって拾ったのが監査委員。管理方法に問題があるのではと嫌味を言われた。二つ目、昼寝して書類に涎を垂らす。後期の予算会議資料だったな。印刷前だったから松前が一から書き直してくれたんだっけ。三つ目…」
「すみません本当にすみません心底反省してます!」
「そっかー。気ィ付けてくれよー」

皮肉っぽい笑みを浮かべる草薙に、一年生書記くんはがくがくと激しく頷いた。
絆創膏を貼り終えて書類を拾い集める書記くんにも「これで仕事遅かったら生徒会から追い出してるっつーの」という低音の呟きは届いたようで、目に見えて作業スピードが上がった。書記に推薦されるだけあって、字がきれいだ。

「チョコフォンデュじゃなくて良かったと思うべきか…」

前会長に次ぐ粗忽者が来たことに対して、私はそうコメントする。途端、草薙と松前が噴き出した。何を思ったか生徒会室でチョコフォンデュした前会長が書類の束にチョコをぶちまけたエピソードは、私たちにとって忘れられない悪夢となっている。チョコを見ると嫌でも思い出すくらいには。

「あ、チョコといえば、唐菜先輩、彼氏さんに何あげるんですか?」

にこにこと笑顔で尋ねてくる松前に、「セサミクッキー」と答える。私と基の間ではバレンタインの定番品だ。このシーズンに限って、私たちは甘いものが嫌いになる。優先順位は自分と基。チョコレート菓子を欲しがられても作る気は無い。

「毎年甘いものは胸やけする程貰ってるし」
「女子の筈なのに、唐菜も去年凄かったよな」

家でまで甘い匂いを嗅ぎたくない、と遠い目をする私に、草薙は笑うが。

「草薙だってさりげなく十個とか貰ってる癖に」
「俺はスイーツ男子だから、渡しやすいんだろ」

甘味好きと公言している自分なら、渡せば喜ぶと解り切っているから。と、説明する草薙の抱えるラッピングの中に、明らかに本命が三割ほど混じっている事には本人だって気付いているだろう。地味にもてる男である。

「ふぅん。…あ、生徒会用にも持ってくるよ」

ついでに言っておくと、生徒会の男共は素直に喜んでくれた。



――そういえば、今年は綾子さんも槻代さんとやらにお菓子を作るのだろうか。
いつもなら手作りするのは基へのチーズケーキだけなのだが、どうなることやら。





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あきゅろす。
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