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ベリィライク
あいせる?



春休みが明けると同時に、理瀬と田崎が付き合い出したことに気付いた。数研コンビの進展を見逃したことで若干不安になっていたが、どうやら私の観察眼は衰えていないらしい。
理瀬は可愛いし空気も読める。気があるそぶりを見せられたら、年頃の男の子がぐらつくのは当然だ。高校生男子なんて彼女が欲しい年頃だし。じわじわ距離を詰めた理瀬の作戦勝ちだろう。

「いつになったら言ってくれるのかな」

恋愛事に関しては目端の利く祐美が、携帯を弄る理瀬を横目で見ていた。
私たちは自力で気付いたのであって、理瀬は私たちには未だ一言も無い。祐美はご立腹だった。女の友情に罅が入る寸前だ。…泥沼・ダメ・絶対。ということでフォローする。

「まぁ、色々複雑なんでしょ」

田崎がつい最近まで私のことを好きだったのがネックになっているのだろう。複雑な事情というのはまず間違いなく私に対する含みである。勿論、藪蛇になるので口には出さないが。薄々察している祐美も、そう言えば口を噤むしかない。
そんなことよりテストの見直しだと、先程返ってきたテストを指先で弾いて言うと、祐美は踏まれた猫のような声を上げた。それに対して忍び笑う音を聞き逃さずに、斜め後ろを仰ぎ見る。

「高月くん今笑ったでしょ」

拗ねた顔で睨む祐美を誤魔化して、基は苦笑した。美形は微笑むだけで大抵のことを許される。
新学期早々の席替えで、私の席は廊下側の最後列になった。移動教室や下校の際に楽だが、人通りが多くてのんびり出来ないのは欠点だ。今まで基の存在に気付かなかったのは、彼が扉の影に居たからだろう。

「何か用?」
「顔を見に来ただけだよ」

さりげないラブアピールを忘れないのは、最早癖になっているから――では無く、寂しがり屋なところの有る基は元からこんな感じだ。身内限定なので、校内では私に対してだけのこの態度。今思えば、誤解されて当然である。
基の腕が私の首を軽く圧迫し、後頭部に胸板が当たっているのを感じる。頭の上に顎を乗せてきた基はまったりとした口調で問い掛けてくる。頭の上でがくがくと顎が動くのを感じて痛い。

「今日も生徒会?」
「うん」
「副会長は忙しいね。教室で待ってるよ」

先輩方が引退して、草薙が生徒会長に、私は副会長になった。草薙が有能すぎるお陰か、前よりも仕事は楽だ。元々同じ空間で仕事をしていて殆どのことを把握していたから、引き継ぎも簡単に終わった。それでも、会計だったときと比べれば仕事は増えたが。
じゃあまた後でね、と。少ない休み時間に文句を言いつつ挨拶をして去って行った基を見送り、祐美は私を睨みつけた。

「いちゃいちゃしやがって…」

書店員のお兄さんに片想いを続ける彼女にとって、私と基のじゃれあいは目の毒だったらしい。



漸く放課後、生徒会が終わって、眉間に皺を寄せながら廊下を歩く。今年度のメンバーは要領の良い人間ばかりで、去年より仕事が進むのは早い。言い換えれば集中して仕事が出来ているのだろうが、その分疲労も溜まる。

「お疲れさま」

まだ寒いからと、基が差し出したのはコーンスープだった。缶のコーンスープなんて久しく飲んでいない。懐かしい気分で受け取って、「ありがと」と笑う。こういう心遣いは嬉しい。
昇降口で靴を換えて外に出ると、まだ新春の冷たい風が首筋を撫でる。ちらりと横目で見ると、基がガタガタと凍えていたのでホッカイロを渡す。

「ありがと」
「ん」

基が嬉しげに微笑んで、指先を擦り合わせる。先刻と逆だ。コートのポケットに手を入れると、コーンスープの缶が指先を温めてくれた。
寒さで早足になるのを抑え、歩くペースを落とす。普通ならこんな日は早く帰宅して温まりたいのだが、最近の基は家に帰るのが楽しくないらしい。わざわざ遅くまで私を待っていたのも、帰宅時間を遅らせる為だ。
こうして逃げ道になってやる私は、ひょっとすると基を甘やかし過ぎているのかもしれない。家族に向かい合う機会を邪魔していると言われれば、確かにその通りだ。
母親と、新しい父親の姿を、彼はまだ愛せない。或いは、愛したくなくて踏みとどまっているらしい。

「まぁ、そのうちね…」

どうせまた些細なことで吹っ切れるんだから、今はまだ、そっとしとこう。





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