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ベリィライク
ひらひら。



雪は三日程降り続け、四日目の朝にはひらひらと風花が舞っていた。冷え込む空気に、吐く息は白くなる。
氷点下を記録した気温にも負けず、私たちは何故かわざわざ公園デート中だ。
昔よく遊んだ公園の真ん中では、子どもが積もった白い雪をキャンバス代わりに、足跡をつけて絵を描いている。国民的アニメのキャラクターである青い猫型ロボットがウィンクしていた。絵心のある小学生だ。ちょっと上手すぎやしないか。

「小唄」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「有り難う」

基は漸く心に余裕が出て来たらしい。未だに鬱々と考え込んではいるのだろうが、少なくとも今はそれが表面には出ていない。
クリスマスが過ぎれば直ぐに大晦日、正月、七草粥を食べる頃には冬休みも明ける。学校でもあの鬱々とした空気を撒き散らすことは無さそうで何よりだ。
――案外他人に心を許さない基は、詮索されるのが好きではない。そのくせ人当たりは悪くないし顔も良いしで人気者だから、周囲は望むように放っておいてはくれない。
あの沈みっぷりでは隠すのも難しいから、余裕を取り戻してくれて本当に良かった。何せフォローするのは幼馴染兼恋人(仮)の私である。単なる落ち込みならまだしも、それに苛々が加わるなんて面倒くさいにも程が有る。

「何か欲しい?」

あ、と今更気付いたかのように、基が言った。今までずっと「おめでとう」の一言だけだったくせに、今年に限って誕生日プレゼントをくれるつもりらしい。

「特に欲しいものは無いな」
「女子のくせに物欲が薄すぎるよ」

不服そうに文句を言う基である。

「恋人からのプレゼントを拒むなんて」

こんなところでも恋人ごっこをしたがる基に、乾いた笑みを向けた。恋人と言っても甘ったるい関係じゃあ無いんだから、そこまでする必要は無いだろうに。

「あー…ほら、過ぎたる欲は身を滅ぼす」
「小唄らしい。でもほら…恋人の誕生日に何もしないっていうのもね」

成る程、周囲へのアピールの為だったか。もうそんなことしなくても学年には知れ渡っているので、必要は無いと思うのだが。

「一緒に過ごしてるんだから充分でしょ」
「そんなもんかな」
「たぶん」
「ふーん…」

波乱ばかりの今日この頃、この淡々とした日常そのままのテンションの淡々とした会話が、ひどく懐かしい。
でもきっとこのマザコンは、落ち着いたように見えても、綾子さんの結婚式が近づいてくればまた荒れる。今回抑え込んだ分も含めて、澱んだものを発散せずにいられないのは間違いない。
だからこそ、今のうちに平和を満喫しておくべきか。

「ねぇ小唄。流石に寒くなってきた」

そろそろ家に帰ろうよ、と基がコートの袖を引っ張る。
男女逆だったらきゅんとする仕草なんだろうが、もちろん基にそんなつもりは無い筈だ。

「そうだね。…あ、」
「どうかした?」

立ち上がりながら思いついて声を上げると、不思議そうに首を傾げて見下ろしてくる焦げ茶色の瞳。
風も無く、ただ空気だけがしんと冷えている。じっとしていれば芯から熱を奪われるような空気に一瞬顔をしかめ、両手に息を吹きかけた。ぎゅうっと拳を握ったり開いたりして、関節の動きを確かめる。

「帰ったらココア淹れてよ。それが誕生日プレゼントで良いから」

――こんな日は、基のココアが飲みたい。





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あきゅろす。
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