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ベリィライク
いらいら。



「――でねっ、何て言うか、雰囲気イケメン?顔は普通なんだけど、なんかオーラがかっこいいの!」

祐美は早速、新しい恋に走ったらしい。昨日、書店の店員に一目惚れしたとか。ところで祐美の言う隣町の書店は私も偶に利用しているのだが、眼鏡を掛けた背の高い店長が居て、可もなく不可も無い顔立ちだが体格の良い好青年、この世のものとは思えない美青年が店員をしている。私の中学時代の先輩のバイト先なので、一応それなりに詳細な情報を手に入れることも可能だ。
この言い分からすると、祐美の目当ては爽やか好青年なのだろう。珍しく趣味は良いが、然し――その話、聞き厭きた。

「やっぱり姿勢が良いっていうのはポイント高いわよね。陰気な猫背もそれはそれでそそられるけど…」

朝から何度同じ話を繰り返しているのだろう。目当ての本をスマートに取ってもらったその仕草に惚れたとか、笑顔が爽やかで素敵とか、リアルに白い歯が輝いても不思議じゃ無いとか、たくましい腕で厚い胸板に抱きしめられたいとか。
話を聞くだけでこの疲労感、一体何なのだろうか。出会いもベタすぎるし、どこかで見たような――…昔祐美に押し付けられた少女漫画の冒頭とそっくりなのは気のせいだろうか。
すっかり目がハート状態の祐美から目を逸らして、頬杖を突く。
ふらふらと漂わせた視線の先では、数研コンビ(文化祭でミラーハウスを設計した二人組である)が数学の問題を解いていた。

「ちょっとウタ、聞いてる?」
「厭きる程」
「ちょ、酷ぉい!」

あの二人、いつの間に名前で呼び合うようになったのだろう。知らぬ間に進展している状況に、少しだけ困惑する。ここのところ混乱していたから、周囲に目を向けることが出来ていなかったのかもしれない。
相変わらず仲が良い数研コンビが器用に両片思いしている状況に、クラスのどれだけの人間が気付いているのだろうか。
静かに視線を走らせた教室内はいつもと変わりないけれど、目新しいことが無いわけでもない。

「いやいや祐美。ウタは悪くない。祐美が浮かれすぎなんだって」
「浮かれて悪い!?あたしの心は春爛漫なのよ」
「冬なのにね。ていうか、自覚してるなら自重しようよ」
「幸せのお裾分けなんだから、有り難く受け取れば良いのに」
「他人の惚気ほど聞いていてむかつくものは無い!」

祐美と理瀬の漫才の、きりの良いところで席を立つ。

「迎えが来たみたい。今度は休み明けにね」

にこりと笑って、教室の入り口に見える基の元へと向かった。基は軽く祐美と理瀬に頭を下げてから歩き出し、顔を顰めた。

「何?」
「バック、持つよ」

ただでさえ、学期の終わりは荷物が多い。国語辞典や英語辞典は電子辞書で賄っているけれど、古語や第二外国語はそうもいかず、結局かなりの重量になる。
肩に食い込む持ち手を一瞥した基は、私の返事を待つことなくスクールバックを攫って行った。このあたり、綾子さんの紳士教育は殆ど完璧である。けれどいつもなら、返事くらいは待つのに。

「有り難う」

礼を言えば、「うん」と頷かれた。何だろう。隠そうとしているのだろうけれど、空気がぴりぴりしている。
微妙に張りつめた横顔に気付いてしまう程度には洞察力があるし、踏み込むことを許さない程に他人というわけでもない。先日見た光景も、彼の苛立ちの理由に関わっているんだろうと想像が付く。

「――随分、苛ついているね」

力を入れすぎて白くなった拳を視界に収めながら言うと、く、と基の喉が鳴る。
揺らいだ瞳と力の無い声に、幼馴染が予想外に傷付いていることを知った。

「恋人を、紹介されるんだ。――今夜」






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あきゅろす。
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