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ベリィライク
まくあけ。



「おはよう小唄!」
「はよ、基」

晴れやかな基の笑顔に、いつものように挨拶を返した。

「あら基くん、朝から珍しいのね。小唄を迎えに来てくれたの?」
「ふふ、まぁね。いつもより早起きしちゃったよ」
「うちの子ってば無駄に早起きだものね」
「仕方ないよ、うちの生徒会って仕事多いみたいだし」

にこにことうちの母と会話する基に若干頭痛を覚える。あぁどうしてあっさり頷いたんだ私。
朝になってようやく、事の重大さに気付いた。基は、やるとなったらとことんやるタイプだ。しかも楽しんでやるタイプだ。つまり私はこれから基の思う『恋人らしい』演技に付き合わなくてはならないわけだ。マジかよ、うわぁー。恋人契約とか、韓国ドラマにありそうだよ。うわぁ。まぁ私と基の場合、本物の恋愛に発展する可能性が全く見込めないところがミソだけど。

「基」
「あ、ごめん小唄。じゃあミチコさん、また明日」
「えぇまた明日。小唄をよろしくねー」
「はーい」

呼ぶと基が玄関の外へ駆けてくる。基とうちの母(ミチコ)の仲が良すぎるのは元からなので気にしない事にして、家を出た。マザコンだからなのか何なのか知らないが、基は年上の女性には三割増しで愛想が良いのだ。あれか、好きな人との共通点が多い人にはいやがおうにも好意的になるってことか。よくわからないけど。

「小唄、手とか繋ぐ?」
「それはもはやバカップルじゃない?」
「うん、そっか。確かに」

そこまでする気は無いらしい。



「ウタ!」
「何さ理瀬?」

教室に入ると理瀬が睨みつけてきた。怖い。普通に可愛い子なだけに怖い。理瀬の隣の祐美が微妙に生温いような目で此方を見ているのも気になる。因みにウタは私のニックネームだ。

「昨日田崎くんにコクられたって、マジ?」

噂が広がるのって、早い。一瞬遠い目をしてしまった。
恐れていた泥沼愛憎劇が…。

「うん、断ったけど」
「…あ、そうなの?何で?」
「…私、今基と付き合ってるよ?」
「ええええ」

理瀬が脱力した。祐美が理瀬の背中を叩いた。

「だから言ったじゃん。心配しすぎ。むしろ傷心の田崎を慰めつつ落としてしまえ」

あくどい。流石は祐美。『恋は戦争』が座右の銘とかほざいているだけある。
そして実は田崎の告白の後に基と付き合い始めた事を言わない私も、結構あくどい。自分に都合の悪いことを言いたくないのは当然だけど。
然し、基と付き合っていると言わなかったらそのまま疑われていた可能性も大きかったりしたのか。もしかして、泥沼回避は基のおかげ?なんとなく認めたくないのは何故だろう。まぁそれも可能性の一つに過ぎないので基に感謝する必要は無いんだけど。


何はともあれ、私と基の恋人契約は、この日から履行されたのである。





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あきゅろす。
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