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ベリィライク
ひめごと。



「うそつき」

柔らかく笑いながら、指摘してくる基はまるで悪魔だ。発言に遠慮が無いだけなのだけれど、その台詞は慣れていない人間の心にはよく刺さるだろう。表情とのギャップが余計にそう思わせる。

「いきなり何」

この唐突さは、昔から変わらない。他の人間にはもっとオブラートに包んだ柔らかな台詞しか向けないのだから、特に問題にはなっていないようだけれど。

「だって小唄、本当は誰も助けない癖に」

ごろり、と基がフローリングに転がる。毎日掃除はしているけれど、よくもまぁ躊躇い無く横になれるものだ。拗ねたような横顔に噴き出した。昼間のことか、と漸く理解する。

「そんなの当たり前でしょ。ていうか嘘は吐いてないし」

私は、選べないと言ったのだから。助ける気が無いのだから選べる筈が無い。まぁ、選ぶ気も無いのだけれど。
だって、崖から落ちそうな人間に手を差し伸べるなんて、私も危険になるじゃないか。

「騙されてるなぁ、ヨシちゃん」
「はいはい」

責めるような物言いを軽く聞き流した。本気で責めているわけじゃないことくらい知っているから。これは単なる暇つぶしの揶揄いだ。

「酷いお姉さんだね」

基は高校に上がって、微妙に底意地が悪くなった。間違いなく浅野先輩に影響されているのだけれど、本人に自覚は無いらしい。
ふと虫の音が耳について、窓の外に視線を向ける。灯りの無い高月家の窓が見えた。部屋の時計に視線を移すと、短針は『10』を指している。二十二時十二分。普段ならとっくに家に戻っている幼馴染は、未だ私の部屋のフローリングに寝転がっている。推理小説を手に取ったあたり、長居する気満々らしい。

「まだ居るの?」

聞いてみると、あっさりと納得できる答えが返ってきた。

「母さん、夜勤なんだ」

つまりは、独りの家に帰りたくないんだろう。仕方ない。基は意外と寂しがりだから。

「泊まる?」
「いいの?」
「今更」

泊まるのなんて初めてじゃない癖に、遠慮しなくとも。そう言うと、困ったように笑う。

「いや、小唄のこと大好きなヨシちゃんもいるし」
「……あぁ、」

成る程ね、と頷く。普段なら、基が私を女として、いわゆる性的な目で見ないことは私が一番よく知っているのだから問題ない。けれど美ちゃんにとっても問題が無いかと言えば、そうは言い切れないわけで。
私と基が本当は付き合っていないことを知っているのは、当事者である私たちだけなのだから。

「まぁ泊まるけど」
「…あっそ」

あっさり前言を無に帰す発言に、ついつい胡乱な目を向けてしまう。それなら最初から遠慮しなければ良かったのに。
携帯でメールを打っていた基が(恐らくは綾子さんに泊まりの連絡)、悪戯を思いついた子どものような顔をして笑った。



「あの子には秘密にしとこうか」

それが賢明だろうね、と私も笑った。





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あきゅろす。
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