[携帯モード] [URL送信]

ベリィライク
ままごと。



「どっちを助ける?」



人の気持ちを測るのに、ありがちな質問である。

大切な人が二人、(例えば母と恋人が)崖から落ちそうになっていたとして、あなたはどちらを助けますか?



ヨシちゃんの質問に、多少、顔が引きつった。聞かれたのは僕ではないのに。あ、まずい、って。
だって、小唄は。

「選べないなぁ」

小唄が少し困った顔をしただけで、ヨシちゃんは引き下がった。納得していない顔だけれど、小唄を困らせるのは本意では無いらしい。本当に好きなんだな、と微笑ましくなる。
引き下がってくれて良かった。小唄は自分を一番愛しているけれど、他人のことがどうでも良いと思っているわけではない。自分を傷付けるのは他人だからと。そのために、本人は否定しそうだけれど、いやになるくらいに誠実だ。
傷付かないため、傷付けないために、嘘を吐く。でも、嘘を吐くのが好きなわけじゃあない。誠実で居ることは、小唄自身も傷付かないで済むために必要な事だ。

「あ?また小唄ちゃん困らせてんのか」
「いったーい!!」

ひょいと顔を出したミヤビさんが、ヨシちゃんの頭を掴んだ。鷲掴みにされた頭部に圧力が加えられているらしく、ヨシちゃんは涙目で暴れている。
ミヤビさんは随分と楽しそうだ。

「雅さん、今日泊まんの?」
「おう」

小唄の問い掛けに軽く頷くミヤビさんに、ヨシちゃんが嫌そうな顔を向けた。ああ、僕に向けた顔よりも嫌そうだ。
力の抜けた手をべしっと振り払って、ヨシちゃんは逃げるように部屋を出ていく。逃げるようにというか、逃げたのか。ミヤビさんはその後ろ姿を楽しそうに見詰めていて、あれが小唄の言う“歪んだ愛情表現”かと納得させられた。

「つーかアレだな基くん。整ってんな」
「はぁ、ありがとうございます…」

いきなり観察するような視線を向けられて、苦笑する。

「選ぶなら美よりかっこいい彼氏だろ。あの愚妹に気ぃ使わなくて良いのに」

外された視線に息を吐く。なんのことかと考えて、先ほどの会話を聞かれていたんだと思い至った。
小唄のある意味自己中な唯我独尊っぷりを、この人も知らないらしい。頭が良さそうだし、鋭そうなのに。それだけ小唄の隠し方が上手いんだろうけれど、意外だ。

「いや、ほんとに。選べませんよ」

目を細めて言う小唄。これは、冷静に穏やかに対応しているようでいて焦っているんだろうな。普段冷静な人が焦っている姿を見るのは、少し面白いような気もする。

「ふーん。基くん、小唄ちゃんこんなこと言ってるけど良いの?」
「うん?あぁ、少し妬けますね」

にっこり笑ってみる。小唄が一瞬真顔になった。なんだか呆れられた気がする。たぶんこの考えは外れていない。

「……変なカップル」

ミヤビさんの呟きにひやりとして、文化祭のときに見た草薙の目を思い出した。
なんとなく似たタイプなのかもしれない。
要注意、かな。





[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!