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ベリィライク
きめごと。



「好きだよ、小唄が」

突然言い出した基に顔をしかめる。例えばこれがヨシちゃんの前だったなら兎も角、二人きりの場所で、何のメリットも無い。
あくまでも偽装。恋愛感情は存在しない関係なのに、そんな風に突然、奇妙な告白をされても反応に困る。
ただ、基の目を見て、そういうことかと納得した。
恋愛感情じゃ無い、けれど慈しむような視線。“好き”が全て恋愛に括られるわけでは無いのだ。特に基の場合、本来その感情を向けるべきではない母親に恋慕しているため、家族愛の行き場が無い。それは代替のように私に向けられた。
幼馴染。一番旧い友人。基の激烈な慕情を知る私へ。
基にとって私は、家族以上に近しい人間なのだろう。

「いきなり何」

そんなことは知っている。何故、いきなり口に出したのだろう。…こいつのことだから、急に言いたくなっただとか、おおよそそんな理由なのだろうけれど。
基は苦笑した。基は苦笑が多い。もともと激しい男なのに、妙に理性が強いのは、やはり母親に恋をしてしまったという特殊な事情のせいなのだろう。
――キレた基は手がつけられないというか、すこぶる面倒くさいので、理性が強いに越したことはないのだけれど。

「言いたくなったんだ」

やっぱり。
けれど突然言いたくなるということは、何か不安でも有ったのだろうか。まぁどうせヨシちゃんが何か言ったんだろう。

「きゃあああ何で居るの!?」

階下から声がした。ヨシちゃんの悲鳴だ。

「何か有ったのかな」

首を傾げる基に小さく笑う。心根が素直なせいか、そんな仕草が妙に様になるというか、可愛らしく見えるのだ。

「たぶん、雅さんが来たんじゃないかな」
「マサさん?」
「ヨシちゃんのお兄さん」
「ミヤビって名前じゃなかった?」

私やミチコ(母)が話すせいで、基も姫塚兄妹には詳しい。

「それが女っぽくて嫌なんだって。雅さんはあだ名」
「へぇ、綺麗な響きなのにね」
「…雅さんの前で、名前に関する発言はしないように」

さらっと誑し発言をした基の額を軽く叩いた。雅さんも怒ると、というより拗ねると面倒くさい。事態を収拾するのはきっと私なんだから、面倒事は少ないに限る。

「ちょっ、ひどーい!」

ああ、また雅さんがヨシちゃんをからかっているようだ。本人はあれで可愛がっているつもりらしいけれど、ヨシちゃんには全くその愛が伝わっていない。

「小唄、晩御飯出来たわよー」

ミチコ(母)の声がして、立ち上がる。今日は基も唐菜家で夕飯を食べていくらしい。
ふと思いついて、ドアの前で振り向く。
勿論、私が一番好きなのは私だけれど。

「私も、好きだよ」

二番目は譲らない。それで良いでしょ?






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